荒井晴彦 略歴
◆1947年1月26日東京生まれ、都立立川高校卒。大学在籍時の1971年より若松プロで助監督、そして足立正生と共に出口出ネームにより脚本を執筆。その後ピンク映画の助監督、脚本執筆を経て、1977年日活ロマンポルノ『新宿乱れ街 いくまで待って』で注目を浴びる。以後、薬師丸ひろ子主演『Wの悲劇』を始め、数々の話題作、傑作を執筆してきた。日本アカデミー賞優秀脚本賞、キネマ旬報脚本賞、毎日映画コンクール脚本賞、日本シナリオ作家協会菊島隆三賞など、脚本賞の受賞は数多い。2016年には読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した。映画監督としては『身も心も』(1997年)『この国の空』(2016年)の2本を発表。1989年より現在に至り季刊誌『映画芸術』の編集・発行人を努めている。
上映作品
今年の1月26日に70歳になった脚本家荒井晴彦氏を関西に招き、「荒井晴彦映画祭 70になった全身脚本家」を開催します。多くのゲストを招き、観客のみなさまと共に、氏の多彩な側面について捉えていく映画祭となります。映画祭はシネ・ヌーヴォをメイン会場としてその膨大な作品群から11本の映画上映し、ゲストと共にトークを行います。本映画祭はKCC京平シネマ倶楽部という関西発祥の30年以上の歴史を持つサークルが母体となり、「荒井晴彦生誕70年映画祭」として準備が進められてきました。荒井さんは東京なら嫌だが、関西人のシャレなら構わないよと言ってくれたタイトルですが、結果的には表題のようなタイトルに落ち着きました。湯布院映画祭などでは、はにかんだ笑顔を絶やさず、参加者と言葉を交わす荒井さんの周りにはいつも映画好きで人だかりができていますが、こちらに来ることがまれな荒井さんのそんな実像を知らない関西の映画ファンには、強面で、頑固で、気難しく、近寄りがたい人だと思っている人も多いでしょう。この機会に荒井さんの素顔に接してみて頂きたくて、この映画祭を企画しました。折りしも、脚本最新作『幼な子われらに生まれ』(三島有紀子監督、浅野忠信・田中麗奈主演)が、8月26日より全国公開(テアトル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、他)となりますが、2010年以降に入って、ほぼ年1本のペースで新作が公開され、監督業にも復帰し、ますます精力的に活動する荒井晴彦の素顔を、本映画祭で、見て、聞いて、話して、感じて下さい。
新宿乱れ街 いくまで待って
1977年/日本/82分/35mm
◎監督:曽根中生◎脚本:荒井晴彦◎撮影:水野尾信正◎照明:川島晴雄◎録音:酒匂芳郎◎美術:徳田博◎音楽:樋口昌之
◎出演:山口美也子、絵沢萠子、中田彩子、日夏たより、青木真知子、あきじゅん、結城マキ、清水浩一、堀礼文、五條博、大矢甫、影山英俊、渡辺護
♦女優志願の女は、新宿ゴールデンの小さな酒場で働きながら、シナリオ修行中の男と同棲している。酒場に集まる若者たちは吹き溜まりのような青春を過ごし、鬱屈した日々を送っている。 やがて映画出演の決まった女はバーで見納めに全裸になって踊る。「この街は青春電車だ。誰もが乗り合わせ、出世した奴から降りてゆく。」の科白が鬱積した若者たちの心を映し出す。そして今、こういう時代があったことが懐かしく思い出される。
赫い髪の女
1979年/日本/73分/35mm
◎監督:神代辰巳◎脚本:荒井晴彦◎撮影:前田米造◎照明:川島晴雄◎録音:橋本文雄◎美術:柳生一夫◎音楽:憂歌団
◎出演:宮下順子、亜湖、石橋蓮司、阿藤快、三谷昇、山口美也子、絵沢萠子、山谷初男、石堂洋子、庄司三郎、高橋明、佐藤了一
♦愛するから嫉妬するのか?それとも、嫉妬を覚えた時に愛が始まるのか?中上健次原作の「赫髪」を、荒井晴彦が男の嫉妬をテーマに脚色、神代辰巳が映像化した日活ロマンポルノの名作。主人公・光造が犬っころでも拾うようにダンプカーに乗せた赫い髪の女との、むせかえるような性愛の日々。主人公・光造を石橋蓮司が、赫い髪の女を宮下順子が妖艶に演じる。原作にはない光造と弟分・孝男とのエピソードが、物語をさらなる深遠へと誘う。
神様のくれた赤ん坊
1979年/日本/91分/35mm
◎監督:前田陽一◎脚本:前田陽一、南部英夫、荒井晴彦◎撮影:坂本典隆◎照明:八亀実◎録音:平松時夫、小尾幸魚◎美術:森田郷平◎音楽:田辺信一
◎出演:桃井かおり、渡瀬恒彦、曽我廼家明蝶、河原崎長一郎、吉幾三、嵐寛寿郎、吉行和子、樹木希林、正司歌江、森本レオ、泉谷しげる、小松政夫
♦同棲中のカップルの部屋に、見知らぬ女が訪れて男の子と置手紙を残してゆく。若い2人は男の子の実の父親探しに尾道、九州へと奔走する。’57年の野村監督「集金旅行」のリメイクだが、ほとんどオリジナルの内容。渡瀬恒彦がこれまでのやさぐれイメージから、すっとぼけた味わいを披露して新鮮だった。 桃井かおりとの軽妙な掛け合いも楽しい、和製ロード・ムービーの快作。 荒井脚本と前田ワールドのコラボによって、ひねりの効いたハートウォーミング・コメディが誕生した。
嗚呼!おんなたち 猥歌
1981年/日本/83分/35mm
◎監督:神代辰巳◎脚本:荒井晴彦、神代辰巳◎撮影:山崎善弘◎照明:加藤松作◎録音:橋本文雄◎美術:渡辺平八郎
◎出演:角ゆり子、中村れい子、内田裕也、絵沢萠子、太田あや子、安岡力也、いずみ由香、黒田征太郎、珠瑠美、石橋蓮司
♦荒井晴彦と神代辰巳の脚本は、内田裕也自身を投影したかのような中年パンクロック歌手を主人公に据え、彼の俳優としての資質を引き出しており、内田を取り合う中村れい子と角ゆり子の関係も合わせて、時に哀しくもあり、時に滑稽でもある。恋人を犯されながらも、内田のことを慕うマネージャー役の安岡力也が、重い過去を抱えた人物を連想させ印象深い。内田裕也の稀代のロッカーぶりが最高だ。エンディング曲はショーケンとジュリーが二人で歌う「ローリング・オン・ザ・ロード」サヨナラ日劇ウェスタン・カーニバルのライブ音源、荒井晴彦こだわりの選曲である。
遠雷
1981年/日本/135分/35mm
◎監督:根岸吉太郎◎脚本:荒井晴彦◎撮影:安藤庄平◎照明:加藤松作◎録音:飛田喜美雄◎美術:徳田博◎音楽:井上尭之
◎出演:永島敏行、ジョニー大倉、石田えり、横山リエ、原泉、七尾伶子、蟹江敬三、根岸明美、森本レオ、鹿沼えり、江藤潤、藤田弓子、ケーシー高峰
♦永島敏行と石田えりは、その肉体を堂々と晒して演じるリアリティが新鮮だった。見合いの席からモーテルへ直行する二人、亭主持ちのスナックのママが客達とふける情事など、男も女も性に本気で貪欲な時代だったのだろう。それぞれの欲望剥き出しのシーンでの荒井脚本が冴える。ジョニー大倉の告白の余りの凄みにも震え、結婚式と殺人事件の狂奏曲へと、結婚式にみんなで歌う「幸せの青い鳥」、青い鳥は飛んで来たのか、逃げたのか。切なさで胸が破裂しそうなラストシーンが秀逸だ。荒井は70年代的に破滅するジョニー大倉を主役にするのではなく、ここではある意味ズルい青春を描くことが狙ったと言う。
時代屋の女房
1983年/日本/97分/35mm
◎監督:森崎東◎脚本:荒井晴彦、長尾啓司◎撮影:竹村博◎照明:飯島博◎録音:原田真一◎美術:芳野尹孝◎音楽:木森敏之
◎出演:渡瀬恒彦、夏目雅子、津川雅彦、中山貴美子、趙方豪、大坂志郎、初井言栄、藤木悠、藤田弓子、朝丘雪路、沖田浩之、平田満、坂野比呂志
♦荒井・長尾脚本を森崎東監督が無断改変した問題作だが、謎の女真弓の美しさが観客を魅了する。古道具を商う「時代屋」を営む安さんの元に、くるりと日傘を回して現れた謎の女真弓。ふらりと家出して、戻ってきて、過去を語らない。父親や後妻との過去にとらわれる安さん。店を畳んで過去と決別するマスター。東京の生活を過去にして恋人の元へ帰る美里。それぞれの過去との決別をほろ苦く描き、真弓という女の美しさ、儚さを描いた傑作。真弓と美郷全く違った二人の女性を夏目雅子が好演。渡瀬恒彦の憂いある表情も魅力だ。
母娘監禁 牝<めす>
1987年/日本/75分/35mm
◎監督:斉藤信幸◎脚本:荒井晴彦◎撮影:鈴木耕一◎照明:宮崎清◎録音:映広音響◎美術:山崎美術◎音楽:篠崎耕平
◎出演:前川麻子、加藤善博、石井きよみ、九十九こずえ、梶谷直美、下井田育実、河原さぶ、本多菊次朗、田辺広太、千葉裕子、上田耕一、吉川遊土
♦母と娘が同じ男達に犯されるという特異な事件を、水戸という地方都市を舞台に、少女たちのヴィヴィッドな会話や見事な人物描写を通じて描く。80年代後半の時代の空気を感じさせつつ、現代にも色褪せぬ、瑞々しい普遍性を持つ映画だ。死ぬ理由をさがした少女は、生きる理由を見つけられたのか。この映画の前川麻子を見た人は幸運だ。彼女はこの年のヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を獲得した。シナリオにおけるユーミンの「ひこうき雲」の使い方が印象的だが、昔、荒井さんに電話をすると、留守電から「ひこうき雲」が流れてきた事を思い出す。
リボルバー
1988年/日本/115分/35mm
◎監督:藤田敏八◎脚本:荒井晴彦◎撮影:藤沢順一◎照明:金沢正夫◎録音:信岡実◎美術:徳田博◎音楽:原田末秋
◎出演:沢田研二、村上雅俊、佐倉しおり、柄本明、尾美としのり、手塚理美、南條玲子、小林克也、山田辰夫、倉吉朝子、吉田美希、我王銀次、長門裕之
♦本作でキネマ旬報脚本賞を受賞した荒井晴彦は「評論家にシナリオがわかるのか、読みもしないで選ぶ脚本賞なんて」と啖呵を切ったが、様々な世代のキャラクターが交差する物語を見事に描いた本作は、シナリオの冴えが光り、鹿児島で起きたリボルバー強奪事件を北海道で見事に完結させている。くるくると回るキャラクターたちの物語があたかもリボルバーの様で、それらを無事に着陸させるところに脚本家の手腕が光る。荒井はアルトマンの「ナッシュビル」と黒木の「とべない沈黙」を意識して書き、”I Shot the Sheriff”の選曲にもこだわった。藤田敏八監督の遺作ともなった。
身も心も
1997年/日本/126分/35mm
◎監督・脚本:荒井晴彦◎原作:鈴木貞美◎撮影:川上皓市◎照明:磯崎英範◎録音:林鑛一◎主題歌:石川セリ、下田逸郎
◎出演:柄本明、永島暎子、奥田瑛二、かたせ梨乃、宮本亜梨紗、加藤治子、利重剛、津川雅彦
♦全共闘世代を代表する映画作家であり、女と男のグダグダを描き続けた脚本家荒井晴彦が初監督作品に選んだのはまさに荒井自身を描いた「身も心も」。柄本明と奥田瑛二が荒井を共有し、永島暎子とかたせ梨乃もまた彼の恋愛の投影に違いない。巧みなコンストラクションと計算されたセリフに支えられたシナリオはもちろん、SEXシーンを見るだけで、心の繋がりが手に取るようにわかる演出も手練手管を堪能させる。主役の四人はもちろん、脇を支える加藤治子、速水典子、佐治乾がよくて、川上皓一のキャメラがそれを支える。初監督にして傑作!
KT
2002年/日本・韓国/138分/35mm
◎監督:阪本順治◎脚色:荒井晴彦◎原作:中薗英助◎撮影:笠松則通◎照明:松隈信一◎録音:橋本文雄◎美術:原田満生◎音楽:布袋寅泰
◎出演:佐藤浩市、キム・ガプス、チェ・イルファ、原田芳雄、筒井道隆、ヤン・ウニョン、香川照之、柄本明、光石研、利重剛、麿赤兒、江波杏子、平田満、白竜
♦1973年8月韓国大統領候補金大中拉致事件を描いた政治サスペンス劇。日韓様々な人物が入り乱れ、史実と骨太なフィクションを交錯させた緻密な脚本は荒井晴彦の一つの到達点とも言うべき傑作。事実荒井も「笠原和夫をインタビューした『昭和の劇』の実践ができた」と語っている。完成した映画では脚本の一部改変があり、脚本と映画のありかたに一石を投じる作品となったが、それでもなお強烈な印象を観客に残す魅力は圧倒的であり、二人の代表作と言っても過言ではない。シナリオと演出の拮抗を堪能すべし!
この国の空
2015年/日本/130分/DCP
◎監督・脚本:荒井晴彦◎撮影:川上皓市◎照明:川井稔◎録音:照井康政◎美術:松宮敏之◎音楽:下田逸郎、柴田奈穂
◎出演:二階堂ふみ、長谷川博己、富田靖子、利重剛、上田耕一、石橋蓮司、奥田瑛二、工藤夕貴
♦黄色いひまわりと赤いトマトそして19才の里子。生命力が満ちているが、1945年の夏の空は青いのに不安な日射しが漂う。 隣家には、妻子を疎開させた38歳の市毛が住んでいる。彼に惹かれていく里子の秘めた情熱は大胆になっていく。今しか見えない戦時下で、女へと変貌する里子が濃厚に描かれていく。里子の戦争は終わらない。時代の女と男を描く荒井晴彦、18年ぶりの監督作。
去年の3月31日に御茶ノ水の病院から出てきた時、桜が満開だった。大げさだけど、生きて、また、見られたとうれしかった。ハシャイで琵琶湖、京都の仁和寺と遠出したのだが、その時じゃなかったろうか。前田耕作が、来年、荒井晴彦生誕70年映画祭を関西でやりませんかと言い出したのは。そんなに偉くないよ、俺、とまず思った。生誕何年とか没後何年って、もう死んじゃってて、ウリが何もない時に使う宣伝文句だよな、とも思う。まあ、冗談話で終わるだろうと思っていた。2008年の12月、川崎市市民ミュージアム・映像ホールで、俺の特集上映があった。脚本家の特集なんて観に来る人いないよと言ったのだが、学芸員の岩槻歩は、私がやりたいからやるんです、と言って、1日2本で9回、18本を上映した。開催の2日前に「荒井晴彦特集上映を即刻中止せよ。さもないと観客全員が死ぬことになる。荒井も死ぬのだ」という脅迫状が市民ミュージアムに来て、厳戒体制下の上映だった。何も知らされず、鞄やバッグの中をチェックされた観客は、映画を観に来たのになんでこんな事をするんだと怒っていた。結局、何も起きなかった。女も男も心当たりはなかったが、俺を恨んでいる奴がいるんだというのはショックだった。
あれから9年、大阪のシネ・ヌーヴォが特集上映してくれることになった。ありがたい。監督の名前で映画を観る人は多いだろうが、脚本家の名前で映画を観る人は少ないのではないだろうか。しかし、俺の仕事をまとめて観れば、監督は違うけれど、そこに、同じ何か、共通する何かがあるのに、気がついてくれるかもしれない。監督の「世界」ではなく、脚本家の「世界」が、そこにあることを分ってくれるかもしれない。楽しみだ。しかし、不安でもある。東京生まれ、東京育ちの俺にとって大阪はアウェイ、外国みたいなものだ。『この国の空』の京都での撮影の時もストレスが半端じゃなかった。江戸じゃ有名な脚本家らしいよとか聞えよがしに撮影所のスタッフが言ってるんだから。俺、映画は国境を越えるなんて信じてない。客が入らなかったらどうしよう。川崎では外した『時代屋の女房』と『KT』が今回は入っている。監督に脚本を無断改竄された2本だ。阪本順治とは『大鹿村騒動記』で仲直り?したけれど、『時代屋の女房』は、まだ観たことが無い。俺の映画じゃない、観るもんかと意地を張って34年、この機会に観てみようか、と、ちょっと揺れている。
荒井晴彦
入場料金
前売券
前売1回券1,200円/前売3回券3,000円
※前売券は、劇場窓口、チケットぴあ、セブンイレブン、サークルKサンクス(以上Pコード:467-338)他にて好評発売中!
当日券
一般1,400円/学生1,200円/シニア1,100円/会員1,000円/高校生以下800円
当日3回券3,600円/シニア3回券3,000円/会員3回券2,700円
※連日朝より当日分の整理番号つき入場券の販売を開始します。
ご入場は各回10〜15分前より整理番号順となりますので、前売券なども受付にて入場券とお引き換えください。
イベント
9/2(土)16:00『KT』上映後トーク+下田逸郎トーク&ライブ ゲスト:荒井晴彦+阪本順治+寺脇研
9/3(日)16:00『遠雷』上映後トーク ゲスト:荒井晴彦+渡辺武信
18:55『母娘監禁 牝』上映後トーク ゲスト:荒井晴彦+井上淳一
9/4(月)16:00『リボルバー』上映後トーク
18:40『嗚呼!おんなたち猥歌』上映後トーク 両回ともゲスト:荒井晴彦+井上淳一
9/5(火)16:00『この国の空』上映後トーク ゲスト:荒井晴彦
9/12(火)16:20『リボルバー』上映後トーク
19:00『嗚呼!おんなたち猥歌』上映後トーク 両回ともゲスト:荒井晴彦+西岡啄也
9/13(水)16:20『神様のくれた赤ん坊』上映後トーク ゲスト:荒井晴彦
※チラシ記載の登壇者に変更がございます。9/13(火)は荒井晴彦さんのみの登壇となります。