メナヘム・ゴーラン 略歴
◆1929年5月31日、ポーランド系の両親の元にイスラエル、ティベリアにメナヘム・グローバスとして生まれる。イスラエル空軍のパイロットとなり、1948年に愛国的理由から姓をゴーランに変える。退軍後はイギリスの舞台学校で学び、ロジャー・コーマン監督作『ヤングレーサー』の助監督をしたことがきっかけとなり本格的に映画作りに参入。従弟のヨーラム・グローバスとNoah Films を立ち上げ、1963年に『エルドラド El Dorado』を初監督する。ゴーランの役割はプロデューサー、クリエイティヴ・パートナーで、グローバスは財務担当であった。Noah Films製作の『Sallah』が1965年のアカデミー賞の外国語作品にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞を受賞したことで、彼らは世界的に注目されることになった。ハリウッド進出という彼らの夢が叶うのは、それから10数年後のことである。70年代後半の『サンダーボルト救出作戦』(1977年)や『グローイング・アップ』(1978年)といった映画のヒットを受け、ハリウッドのインディペンデント製作会社キャノンを買収。製作、配給、興行を含めた総合的な映画会社として、ハリウッドにキャノン帝国を作り上げることとなった。しかしそれは長くは続かず、80年代末の実質的なキャノンの倒産を経て、ゴーランはグローバスとも別れ、21st Century Picturesを設立して独自の映画作りを続ける。そこでもゴーランは多数の映画を製作、『バトルガンM-16』(1989年/J・リー・トンプソン監督)や『キャプテン・アメリカ/帝国の野望』(1990年/アルバート・ピュン監督)といったヒット作も生んだが、会社は90年代半ばで閉じられた。 その後2000年代に入っても多くの作品を作り続け、2014年8月8日、テルアビブにて死去した。
上映作品
キャノン・フィルムズを率いて、80 年代ハリウッドに大旋風を巻き起こしたイスラエル出身の従兄弟メナヘム・ゴーランとヨーラム・グローバス。映画監督でもあるメナヘムとプロデューサーとして高い資質を持つヨーラムのコンビは、低予算のジャンルムービーを次々に製作し、『デルタ・フォース』『暴走機関車』そして『狼よさらば』シリーズなど、当時のメジャー映画会社を超える制作本数でヒットを量産1986 年には年間46 本の作品を製作。巨万の富を稼ぎ、一時代を築いていく。その一方で、ゴダールやカサヴェテス、アルトマンなど商業主義とは一線を画す映画作家たちの映画へも出資するなど、映画の道の全方位へとふたりは突き進んだ。しかし、情熱で始めた映画は、やがて大きな資本の流れにまみれ、ふたりの関係にも亀裂が入っていくこととなる…
『キャノンフィルムズ爆走風雲録』は2014 年に惜しくもこの世を去った、メナヘム・ゴーランのキャリアを振り返るだけでなく、映画にその情熱、愛情の全てをそそいだふたりの友情、確執と離縁、そして融和を描き、新たなる時代の「ニュー・シネマ・パラダイス」とも呼べる作品となっている。
ゴーランのプロデュース作から監督作まで、イスラエル時代の作品からキャノンフィルムズまで全14作品一挙上映!
キャノンフィルムズ 暴走風雲録
2014年/89分/イスラエル/東京テアトル
◎監督:ヒラ・メダリア◎撮影:オデット・キルマ
◎出演:メナハム・ゴーラン、ヨーラン・グローバス、シルヴェスター・スタローン、ジャン・クロード・ヴァン・ダム、ジョン・ヴォイト、チャールズ・ブロンソン、チャック・ノリス、イーライ・ロス
♦1980年代のハリウッドを席巻した、イスラエル出身で従兄弟のメナハム・ゴーランとヨーラン・グローバスのキャリアに迫るドキュメンタリー。映画会社「キャノンフィルムズ」を立ち上げ、映画監督とプロデューサーとして『暴走機関車』『デルタ・フォース』などのヒット作を次々生み出した彼らの足跡を映す。シルヴェスター・スタローンやジョン・ヴォイトら大物スターが続々登場。映画に全力投球した男たちの生きざまに、引き込まれる。
メナハム・ゴーランとヨーラン・グローバスは、ハリウッドに進出し「キャノンフィルムズ」を設立する。映画監督も務めるメナハムとプロデューサーのヨーランコンビは低い予算で作品を多数製作。やがて1980年代にはジョン・ヴォイト主演『暴走機関車』や、チャールズ・ブロンソン主演『デス・ウィッシュ』シリーズなどのヒット作を生み出していくが……。
エルドラド El Dorado
1963年/イスラエル/88分/35ミリ/監督・脚本:メナヘム・ゴーラン/製作:モルデハイ・ナヴォン/脚本:レオ・フィラー、アマツィヤ・ヒユニ/撮影:ニシム・レオン/音楽:ヨハナン・ザライ/ 出演:ハイム・トポル、ギラ・アルマゴール、ヨッシ・ヤーデン、シャイケ・オフィール、ほか
♦メナヘム・ゴーランの映画作りにヨーラム・グローバスが参加する前の1963年製作。ゴーラン初監督作品である。ゴーラン自身がプロデュースを務め、脚本にも共作として係わっている。『カザブラン』の原作者でもあるイスラエルの小説家Yigal Mosenzonが書いた戯曲が原作。2012年には東京フィルメックスの『イスラエル映画傑作選』にて日本でも上映された。 舞台となるのは大都市テルアビブのヤッファ地区。無実の罪で訴えられてしまったベニー(ハイム・トポル)。
弁護士にも彼を助ける手だてはなかった。政治的な圧力もあり、ベニーは罪を受け入れざるを得なくなる。そして、自分の無実を証明するために彼は闘うこととなった。暗黒街を舞台に、弁護士令嬢と売春婦との恋愛模様を織り交ぜ、闘い抜く男の姿を描く。 映画版『屋根の上のギター弾き』で主役を務めたハイム・トポルを主演に迎え、正統派フィルム・ノワールとも言える端正なタッチで描かれる傑作。もちろんモノクロ撮影。後に低予算映画の猥雑さとデタラメさを売りにすることになるゴーランの原点の、この慎ましやかな輝きに注目されたい。本作でゴーランは、イスラエル・アカデミー賞の監督賞を受賞した。(原山果歩)
アイ・ラブ・ユー・ローザ Ani Ohev Otach Rosa (I Love You Rosa)
1972年/イスラエル/72分/35ミリ/監督・脚本:モシェ・ミズラヒ/撮影:アダム・グリーンバーグ/音楽:ドブ・セルツァー/ 出演:ミハル・バット‐アダム、ガビ・オッターマン、ヨセフ・シロア、レヴァナ・フィンケルシュテイン、ほか
◆モシェ・ミズラヒが監督、脚本を手がけるラブロマンス映画。1972年カンヌ映画祭のコンペティションに出品され、翌年にはアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。時代設定は19世紀後半。ユダヤ人のニシムは、ユダヤの古い慣習にもとづき、死んだ兄の妻だったローザと結婚する義務があった。兄が亡くなった当時11歳だった彼だが、成長するにつれてローザへの愛情は大きくなる。一方、ローザは、あまりに年の離れたニシムとの結婚に戸惑いを感じ、彼と距離をおく。長い月日が過ぎてもニシムのローザを愛する気持ちは変わらず、ローザのもとへ戻る。ともに過ごしていく中で、ふたりの関係は変化していく。 ミズラヒ監督監督の母親の実体験にもとづいて製作され、ニシムとローザの対照的な感情とともに、古い慣習と現代の生き方のジレンマを、とくに女性の権利について焦点を当てて描いている作品。撮影のアダム・グリーンバーグは『グローイング・アップ』シリーズや『サンダーボルト救出作戦』などのゴーラン=グローバス作品の他、アメリカ進出後は『ターミネーター』『ニアダーク/月夜の出来事』『ゴースト/ニューヨークの幻』などを手がけている。(原山果歩)
カザブラン Kazablan
1974年/イスラエル/122分/35ミリ/ 監督・脚本:メナヘム・ゴーラン/脚本:ハイム・ヘフェル、イガル・モセンゾン/撮影:デヴィッド・ガーフィンケル/音楽:ダヴ・セルツァー/ 出演:イェホラム・ガオン、エフラット・ラヴィ、アリエ・エリアス、エティ・グロテス、イェフダ・エフロニ、ほか
◆1974年に公開された、メナヘム・ゴーラン監督によるミュージカル映画。原作は「イスラエルの『ロミオとジュリエット』」と言われる戯曲「カザブラン」。主人公の退役軍人カザブランは今やギャンググループのリーダーだ。中東系ユダヤ人である彼が恋に落ちた女性レイチェルはヨーロッパ系ユダヤ人。文化の違いや街のスキャンダル、家族の確執などが渦巻く中、隣人達にはもうひとつの心配ごとがあって…。 この戯曲は1954年に初演された後、1964年にも一度映画化されている。1966年にはミュージカルとして上演。このミュージカルはイスラエルで大きな成功をおさめ、主演を務めたエルサレム出身の歌手イェホラム・ガオンにも名声をもたらした。彼の成功は、その後演劇界に進出していくたくさんの中東系ユダヤ人にとっての希望の星となったのだ。メナヘム・ゴーラン版でも、再び彼が主役を演じている。 「この作品においても最も興味深いポイントはユダヤ社会における二大勢力の対立を映し出している点だろう。しかし主人公を、世間から遠ざかった退役軍人のギャングリーダーにしたことで、嫌味なく描いている。音楽も親しみやすい」と評しているのはロンドンのタイム・アウト紙だ。(梶原香乃)
サンダーボルト救出作戦 Mivtsa Yonatan (Operation Thunderbolt)
1977年/イスラエル/124分/35ミリ/ 監督:メナヘム・ゴーラン/脚本:クラーク・レイノルズ/撮影:アダム・グリーンバーグ/音楽:ダヴ・セルツァー/ 出演:クラウス・キンスキー、ヨーラム・ガーオン、シビル・ダニング、アサフ・ダヤン、オリー・レヴィ、ほか吉永小百合、仲代達矢、田中健、大竹しのぶ、小林旭、関根恵子、藤田進、河原崎長一郎、井川比佐志、小沢昭一
◆タイトルの「サンダーボルト救出作戦」とは、1976年、テルアビブからパリへと向かう飛行機が4人のテロリストたちによってハイジャックされた事件に対してとられた、極秘救出作戦のことを指す。単なるハイジャック事件と異なるのは、その背景にイスラエルとウガンダの国際的対立が含まれている点で、それを受け本作は単なるサスペンスに留まらず、社会派映画としても見応えのある作品となっている。製作・監督がイスラエル人であるゴーランということもあり、視点や人物造形は非常にリアルであり、ドラマにも説得力がある。この「エンテベ空港奇襲作戦」をもとに3本の映画が作られたが、その中でももっとも有名な作品が、ゴーランによる本作と言えるだろう。シビル・ダニングやクラウス・キンスキーといった個性豊かな国際的名優がテロリスト役で出演しているのも大きな話題だ。 本作は監督としてのゴーランの代表作とも目されている。また、1977年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、授賞式に出席したことが彼の80年代における活躍の大きな出発点となった。いわば本作はゴーランのひとつの原点であり、当時の政治情勢を知る上でもおすすめの作品と言える。(若林良)
グローイング・アップ Eskimo Limon (Lemon Popsicle)
1978年/イスラエル/95分/DVD/ 監督・脚本:ボアズ・デヴィッドソン/脚本:エリー・ティヴァー/撮影:アダム・グリーンバーグ/音楽:ジャック・フィッシュマン/ 出演:イフタク・カツール、ジョナサン・サガール、ツァヒ・ノイ、アナト・アツモン、ほか
♦ボアズ・デヴィッドソン監督、メナヘム・ゴーラン製作による、イスラエル発のとびきりエッチな青春コメディ映画。17歳の高校生達の行動を通して、友情、初恋と失恋、SEX、そして、思春期真っただ中の10代誰しもが体験するであろう喜びや苦悩、不安などを描いている。 真面目でナイーブな性格のベンジー(イフタク・カツール)は、親友であるイケメンのボビー(ジョナサン・サガール)や太っちょのヒューイ(ツァヒ・ノイ)と共にディスコでガールハントする日々を過ごしていた。そんなある日、ベンジーは髪の長い美しい転校生ニキ(アナト・アツモン)にひと目惚れしてしまい…。 ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』に影響されて作られた作品であり、美少女が登場するシーンでは「ロリポップ」、ダンスシーンでは「あなたの肩に頬うめて」、失恋したシーンでは「ミスター・ロンリー」とそれぞれのシーンにぴったりのオールディーズの名曲が流れるのも特徴のひとつ。また出演者はほとんど無名だったが、ヨーロッパや日本で大ヒット。さらにイスラエルでは同国の興業記録を塗り替えるほどの大ヒットとなった。シリーズ化され、全8作が作られた。(船津遥)
アップル The Apple
1980年/アメリカ・西ドイツ/90分/DVD/ 監督・脚本:メナヘム・ゴーラン/撮影:ディヴィッド・ガーフィンケル/音楽:コービー・レヒト/ 出演:キャサリン・メアリー・スチュアート、ジョージ・ギルモア、ほか
◆メナヘム・ゴーランが監督、脚本、プロデューサーの3役を務めるSFロックミュージカル映画。「近未来」である1994年の音楽業界を舞台に「服従と反抗」というテーマを「アダムとイヴ」をはじめとした聖書の逸話を織り交ぜながら描いている。 カナダ出身のアルフィー(ジョージ・ギルモア)とビビ(キャサリン・メアリー・スチュアート)は才能ある若いデュオ。音楽コンテストに出場する為アメリカにやってくるも、業界を牛耳っているミスター・ブーガロー(ヴィアデック・シェイバル)の根回しで優勝を逃してしまう。だがその才能を見込んだブーガローは契約の話を持ちかけて…。公開当初はレビューで一つ星を付けられることも少なくなく、「全ての歌が最悪!」「ロッキーホラーショーの真似事をしようとして見事に失敗している」などと酷評ばかり受けていた。しかし、後になってカルト的な人気を博すようになった。LA Weeks紙は「興奮!熱狂!見逃してはいけないスペクタクル!」と評し、VARIETY紙は「あまりにも魅力的に酷い近未来ロックミュージカル映画」「『酷すぎるから見逃せない!』カルト映画のクラシック」と紹介している。(梶原香乃)
ラヴ・ストリームス 【復元ニュープリント版】 Love Streams
1984年/アメリカ/141分/35mm/ 監督・脚本:ジョン・カサヴェテス/撮影:アル・ルーバン/音楽:ボー・ハーウッド/ 出演:ジーナ・ローランズ、ジョン・カサヴェテス、ダイアン・アボット、リサ・マーサ・ブルイット、シーモア・カッセル、ほか
◆ハリウッドのスタジオ・システムを拒否し、生涯「自主制作」という立場で映画を撮り続けた鬼才ジョン・カサヴェテス。「アメリカン・インディーズ映画の父」と呼ばれる彼の、晩年の代表作が本作だと言えるだろう。自分の愛を思うように表現できないまま、愛や孤独をテーマとした小説を執筆する弟と、激しすぎるほど夫や娘に愛情をむけたため、精神のバランスを崩し次第に狂気へと陥っていく姉。対照的な“愛”のかたちを持つ姉弟の、内面の揺れ動きに焦点をあてる。日々の生活における感情の揺らめき、また心のうちを丹念に画面の中にうつしとってきたカサヴェテスの、本作はまさに集大成と言える。愛の激しさゆえに自分を見失う姉・サラは中期の代表作『こわれゆく女』を彷彿とさせ、自分なりの“愛”のあり方に不器用な弟・ロバートは、『ハズバンズ』の3人の男たちを連想させる。姉弟を演じるのはカサヴェテス映画の常連であり、また妻でもあるジーナ・ローランズと、カサヴェテス自身。俳優としてはこれが最後の作品となり、ラストの手をふる仕草はカサヴェテス自身の別れの挨拶であったという。1984年度ベルリン映画祭金熊賞受賞作。(若林良)
ニンジャ Ninja Ⅲ: The Domination
1984年/アメリカ/92分/BD/ 監督:サム・ファーステンバーグ/脚本:ジェームズ・R・シルケ/撮影:ハナニア・ベア/音楽:ウディ・ハーパス、ミーシャ・シーガル/ 出演:ショー・コスギ、ルシンダ・ディッキー、ヨルダン・ベネット、デヴィッド・チョン、デール・イシモト、ジェームズ・ホン、ボブ・クレイグ、ほか
◆『燃えよNINJA』『ニンジャII 修羅ノ章』に続くキャノン・フィルムズのニンジャシリーズ3作目にして完結編。これらはシリーズものになっているが、それぞれストーリーに繋がりがある訳ではない。監督はサム・ファーステンバーグ、主演は2作目に続き日本人俳優ショー・コスギ、ヒロインにルシンダ・ディッキーが名を連ねる。 死んだニンジャの魂が、エアロビクスインストラクターをしている女性の身体に取り憑いてしまう。自分を殺した相手に復讐を計っているのだ。彼女の魂が解放される方法はただひとつ。他のニンジャとの戦いによってのみだ。「いかにも滑稽なストーリーラインだが、そのアクションシーンは一流だ。目を見張るセットの中で起こるアクションとホラー/ファンタジーの融合が素晴らしい」とフィルムソサエティー・リンカーンセンターで紹介された。全米公開後も日本ではキワモノ扱いを受け、初めは劇場公開に至らずビデオスルーとなったが、アメリカで大いなるニンジャブームを引き起こす。また日本人俳優ショー・コスギのサクセスストーリーもあり、全米公開の3年後、1987年にようやく日本公開された。(梶原香乃)
スペース・バンパイア Lifeforce
1985年/イギリス・アメリカ/116分/BD/ 監督:トビー・フーパー/脚本:ダン・オバノン、ドン・ジャコビー/撮影:アラン・ヒューム/音楽:ヘンリー・マンシーニ/ 出演:スティーヴ・レイズルバック、ピーター・ファース、フランク・フィンレイ、マチルダ・メイ、ほか
◆タイトル通り、「宇宙から来た吸血鬼が、地球をパニックに陥れる」という内容の本作。しかし単なるB級映画と侮るなかれ、本作はその“吸血鬼”がかなりの変化球なのだ。つまりは、マントに鋭い牙と言ったお決まりのパターンではなく、目のやり場に困る全裸の美女(一応男性型も登場するが)。彼女たちの正体は生命を吸い取るバンパイアであり、精気を吸い取られた人間もまたバンパイアと化してしまう。人間がみるみるうちにミイラ化していく衝撃的なVFXや、ロンドンの街にあふれかえるゾンビの大群など、本作の視覚的な衝撃度は非常に強い。 しかしながら、この映画一番の見どころは、女性バンパイアを演じたマチルダ・メイの当時19歳の裸体であるかもしれない。彼女は文字通り体当たり演技で、男に全裸で抱きついて精気を吸い取っていく。かつて淀川長治が、この作品を「日曜洋画劇場」で紹介する際、内容そっちのけで彼女の美乳について語り続けたというエピソードも有名である。マチルダはのちに『おっぱいとお月さま』でその美乳を本作以上に有効利用することにもなった。ヘンリー・マンシーニとは思えぬ、壮大かつ猛々しいテーマ曲にも注目。(若林良)
バーフライ Barfly
1987年/アメリカ/100分/BD/ 監督:バーベット・シュローダー/脚本:チャールズ・ブコウスキー/撮影:ロビー・ミューラー/音楽:ジャック・バラン/ 出演:ミッキー・ローク、フェイ・ダナウェイ、アリス・クリーグ、フランク・スタローン、J・C・クイン、ほか
◆LAダウンタウン。<バーに群がるハエ>ことヘンリー・チナスキー(ミッキー・ローク)は今夜も酒屋に入り浸り。気に入らないマッチョのバーテン(フランク・スタローン)に喧嘩を吹っかけ、顔が潰れるまで殴り合う。家賃もない、仕事もない、女もいない浮浪者まがいの男がひとり。そんなところへ互いに正反対のふたりの女性が現れる。煙草を吸いながら泥酔する美しいワンダ(フェイ・ダナウェイ)、出版社を経営する裕福で高貴なタリー(アリス・クリーグ)。社会に対する内なる闘争心を抱え、物書きを目指すヘンリーは、今夜もいつもの顔ぶれが揃う酒場へ。 「平凡な社会人になりたくなかった。家賃を払い、テレビを見ながら過ごす。バーは隠れ家だった。メインストリームから脱出するための」。脚本を書いたチャールズ・ブコウスキーは、本作が自伝的映画だと認める。監督バーベット・シュローダーがブコウスキーに脚本執筆を持ち掛けてから8年、メナヘム・ゴーランにこの映画を作る気がないなら、今ここで自分の指を切り落とすと、電気のこぎりを手にキャノン・フィルムズ社に怒鳴り込みにまでいったという伝説的映画! (保坂瞳)
タフガイは踊らない Tough Guys Don't Dance
1987年/アメリカ/110分/DVD/ 監督・脚本:ノーマン・メイラー/撮影:ジョン・ベイリー/音楽:アンジェロ・バダラメンティ/ 出演:ライアン・オニール、イザベラ・ロッセリーニ、デブラ・サンドランド、ウィンゲス・ハウザー、ローレンス・ティアニー、ペン・ジレット、ジョン・ベットフォード・ロイド、フランシス・フィッチャー、ほか
◆ノーマン・メイラーの同名小説を、メナヘム・ゴーラン製作により原作者自身が監督して映画化したサスペンス・スリラー。製作総指揮にはフランシス・フォード・コッポラが名を連ねる。妻に逃げられ酒に溺れる作家のティムは、断片的に覚えている奇妙な5日間のことを振り返る。大麻の隠し場所から見つかった女の首。怪しく迫り来る警官と、その妻である美しい元恋人。妻との乱れた生活。霊との交流。果たして自分が本当に殺人を犯したのか…。 本作について、メイラーはこんな風に語る。「特異なキャラクター、情緒豊かな土地、粋なユーモア、町にはびこる無秩序なバイオレンス…これらの要素は「恐怖」を生み出すには欠かせないSFにも劣らない効果的な役割を果たしている。この映画は、アメリカの享楽に耽った者たちの、異常で悪質な“発狂”を描いたものである」。 この「発狂」具合が影響したのか、本作は毎年の最低映画を競うゴールデンラズベリー賞で最低男優賞、最低女優賞他7部門にノミネート。見事に最低監督賞を受賞した。音楽は『ブルーベルベット』『ツイン・ピークス』などのデヴィッド・リンチ作品で知られるアンジェロ・バダラメンティが担当している。(田中めぐみ)
ブラッドスポーツ Bloodsport
1988年/アメリカ/92分/BD/ 監督:ニュート・アーノルド/脚本:シェルドン・レティック/撮影:デヴィッド・ワース/音楽:ポール・ハーツォグ/ 出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドナルド・ギブ、リア・エヤーズ、ノーマン・バートン、ボロ・ヤン、ヴィクター・ウォン、フォレスト・ウィッテカー、ロイ・チャオ、ほか
◆ジャン=クロード・ヴァン・ダムのカタコト英語が愛らしい! 彼が演じる米国軍人フランクは、親友である師匠の意思を引き継いで、香港で開催される格闘大会「クミテ」の王者を目指すのだ。制作費は1億円だったが、興行収入11億円を超す大ヒットとなり、3本の続編が作られた。 ウェイターをしていたヴァン・ダムがゴーランに自身を売り込んだエピソードは『キャンフィルムズ爆走風雲録』でも語られているが、今作でいきなり主演に抜擢。バレエで鍛えた柔らかい身体を誇示するかのような謎の股割りシーンや、どこを鍛えているのか全くわからない不思議な訓練シーンなど、見所満載! 香港の怪しげな雰囲気と怪しすぎる異種格闘技大会参加者の面々、ブルース・リーを彷彿とさせる豪華なアクションシーンもマーシャルアーツ・ファンには楽しい。殺人をも辞さない先代チャンピオン、チョン・リーの非道な攻撃をフランクは耐え抜くことができるのか? 全体的にどうしようもなく馬鹿馬鹿しいのに、師匠である日本人空手家、田中や相棒のジャクソンとの絆にはホロリとされられる。脇役で出演するフォレスト・ウィッテカーにも注目。ラストの盛り上がりはすごいぞ!(藤原理子)
幽霊伝説/フランケンシュタイン誕生物語 Haunted Summer
1988年/アメリカ/106分/DVD/ 監督:アイヴァン・バッサー/脚本:ルイス・ジョン・カリーノ/撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ/音楽:クリストファー・ヤング/ 出演:エリック・ストルツ、ローラ・ダーン、アリス・クリーグ、フィリップ・アングリム、ピーター・バーリング、ドン・ホドソン、テリー・リチャーズ、アレックス・ウィンター、ほか
◆60年代チェコ・ヌーヴェルヴァーグの中心的監督アイヴァン・パッサー。初期は同世代のミロシュ・フォアマンなどと共に映画制作を行い、『Intimate Lighting』など瑞々しい傑作を発表した。しかし68年にソ連軍がプラハに侵攻すると、イタリア大物プロデューサーのカルロ・ポンティの助力によりアメリカに亡命。その後も『生き残るヤツ』や『男の傷』など数々の傑作を監督した。本作はそんなチェコの鬼才が撮ったイギリスのロマン主義的映画である。 舞台は1816年、5人の若いイギリス人男女がスイスの湖畔にある館に集まり、哲学的議論や詩作、恋に耽る。妻のいる青年と駆け落ちしたメアリ、その恋人の若き詩人シェリー(エリック・ストルツ)、メアリの妹クレア(ローラ・ダーン)、世紀の大詩人バイロン卿、彼の主治医でありながら愛人のジョン・ポリドーリ。文学的情熱、反抗心の奮起、情緒的アヘン、屈折したエロスが交じり合う。しかし、倦怠で耽美な時間もつかの間、彼らの前に不穏な悪夢と幽霊が影を落とす...。『フランケンシュタイン』が書き上げられたと言われるディオダティ荘で起きた、19世紀の大詩人バイロンと作家シェリーらの一夏のフィクション。日本劇場未公開作品。(保坂瞳)
入場料金
当日券
『キャノンフィルムズ爆走風雲録』のみ 一般1500円、学生1300円、シニア1100円、会員・高以下1000円
【メナヘム・ゴーラン映画祭 作品】(『キャノンフィルムズ爆走風雲録』以外の作品)1,100円均一
※連日朝より当日分の整理番号つき入場券の販売を開始します。
ご入場は各回10〜15分前より整理番号順となりますので、前売券なども受付にて入場券とお引き換えください。