チェコ・ファンタジー・ゼマン!

時代劇が前衛だった日本映画の青春期 牧野省三 衣笠貞之助 伊藤大輔 伊丹万作
前衛都市・京都は日本映画の揺籃の地である。稲畑勝太郎がシネマトグラフの最初の試写を行い、牧野省三が最初の劇映画『本能寺合戦』を撮った。撮影所が次々と開設され、関東大震災を機に多くの人材が引き寄せられた。衣笠貞之助、伊藤大輔、溝口健二、内田吐夢、伊丹万作….....。一九二〇年代半ばの京都に集まった多彩な映画人のエネルギーと実験精神が日本映画の新たな地平を切り拓き、一九三〇年代の黄金時代へとつながった。まさに日本映画の青春期であった。
『時代劇が前衛だった/牧野省三、衣笠貞之助、伊藤大輔、伊丹万作、山中貞雄』(淡交社)は新発見のフィルムや資料、存命の関係者の証言などをもとに、五人の映画作家の物語を通して、この時期(一九一〇年代の牧野省三、三〇年代の山中貞雄を含め)に京都で作られた映画の革新性を描き出そうとしたものである。
本にまとめてみて気づいたのは、この物語がまぎれもなく「青春群像もの」であるということだった。登場人物はみな若く、大胆で、野心に満ちていた。
彼らの若さ、大胆さ、野心はすべて彼らの映画にうつっている。だから、まずその画面に目を凝らしていただきたい。今日の若い自主映画作家たちも驚くような実験精神と冒険心がみなぎっているから。

古賀重樹

牧野省三 すべてはマキノから始まった! 日本映画の開拓者
◎『豪傑児雷也』『逆流』『雄呂血』は3本立てで上映します。

豪傑児雷也

豪傑児雷也一九二一年/日活大将軍/デジタル/白黒/十九分(20fps)/活弁入り
提供:マツダ映画社
監督:牧野省三
出演:尾上松之助、市川壽美之丞、片岡長正、大谷鬼若 片岡松燕

◆児雷也がパッと姿を消したり、ドロンと現れたり、また消えたと思ったら、巨大なガマに変身したり。「目玉の松ちゃん」を有名にしたメリエス的なトリック撮影が存分に楽しめる牧野省三・尾上松之助コンビの末期の作品。すでに大家となった松之助の演技はいささか様式的だが、この役者本来の身の軽さを生かしたリアルなアクションがマキノ映画の源流だ。

 

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逆流

逆流一九二四年/東亜キネマ等持院撮影所・マキノ映画/デジタル/白黒/発見部分二十八分(16fps)/活弁入り 提供:マツダ映画社
製作:牧野省三/監督:二川文太郎/原作・脚色:寿々喜多呂九平/撮影:橋本佐一呂
出演:阪東妻三郎、片岡紅三郎、嵐冠三郎、マキノ輝子、清水零子、中川芳江、瀬川路三郎、大谷万六

◆尾上松之助と決別し、日活を飛び出した牧野省三は、歌舞伎の型を脱したリアルな剣劇、勧善懲悪の旧劇ではない反逆精神が息づく新しい時代劇を創り出す。その推進力となったのが寿々喜多呂九平ら若い脚本家、阪東妻三郎ら若い俳優たちだ。阪妻が落魄していく侍を演じるこの作品は、翌年の『雄呂血』の筋立てを思わせるが、終幕の虚無感はより深い。

 

 

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雄呂血

雄呂血一九二五年/阪東妻三郎プロダクション・マキノプロダクション/デジタル/白黒/一時間十五分/活弁入り 提供:マツダ映画社
総指揮:牧野省三/監督:二川文太郎/原作・脚本:寿々喜多呂九平/撮影:石野誠三/舞台装置:河村甚平(弁士:松田春翠)
出演: 阪東妻三郎、関操、環歌子、春路謙作、山村桃太郎、中村琴之助、嵐しげ代、中村吉松、森静子


◆マキノから二川文太郎と寿々喜多呂九平が送り込まれた阪東妻三郎プロの第一作。居丈高な家老の息子に「無礼講の酒席で身分の差別で論じるとは、無礼でござろう」と反論する阪妻は、大正デモクラシーの時代を生きる侍といえる。捕り方に囲まれ、体の線も身なりも崩れて前をはだけて闘う阪妻のマゾヒズム的なアクション、その激烈な感情表現が見もの。

 

 

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衣笠貞之助 生き続ける実験精神世界に伍したアバンギャルド


狂った一頁

狂った一頁一九二六年/新感覚派映画連盟・ナショナルフィルムアート社/デジタル/白黒/一時間十九分(18fps)/サイレント・染色版 国立映画アーカイブ所蔵作品
監督:衣笠貞之助/原作:川端康成/脚色:川端康成、衣笠貞之助、犬塚稔、沢田暁紅/撮影: 杉山公平/撮影補助:円谷英一/舞台装置:林華作、尾崎千葉
出演:井上正夫、中川芳江、飯島綾子、根本弘、関操、高勢実、高松恭助、坪井哲、南栄子

◆精神科病院を舞台にイメージの奔流が画面を埋め尽くす実験的作品。牧野省三の下で時代劇を濫作していた衣笠貞之助が「思いのままに映画をつくってみたい」と一念発起して撮った。脚本は『伊豆の踊子』を発表したばかりの二十六歳の川端康成。無字幕としたのは横光利一の発案。若き杉山公平、円谷英二も参加。オリジナルの染色をよみがえらせた染色版。

 

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十字路

十字路※原版は英国ナショナル・フィルムアーカイブより里帰りしたフィルムに付き、[英語版]となります。当日、ご覧のお客様に[日本語字幕資料]を配布します

一九二八年/衣笠映画聯盟・松竹キネマ/デジタル/白黒/一時間二十七分(18fps)/サイレント・英語版 国立映画アーカイブ所蔵作品
監督・脚本:衣笠貞之助/撮影: 杉山公平/美術:友成用三/照明:内田昌夫
出演:千早晶子、阪東寿之助、小川雪子、相馬一平、中川芳江、関操、二條照子、小沢茗一郎

◆柱や梁が曲がっていたり、ふすまが渦巻き模様だったり。ドイツ表現派風のセットで展開する立ち回りのない時代劇。衣笠はこの作品をもって渡欧。モスクワでエイゼンシュテインと歓談し、ベルリンでラングの撮影現場を見学。さらにドイツの俳優たちと自主映画を撮る準備までした。この時、輸出したフィルムの一本が英国で発見され、里帰りが実現した。


 

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地獄門

地獄門一九五三年/大映京都/三十五ミリ/カラー/一時間二十九分 提供:KADOKAWA
監督・脚本:衣笠貞之助/原作:菊池寛/撮影: 杉山公平/美術:伊藤嘉朔/色彩指導:和田三造/音楽監督:芥川也寸志/技術監督: 碧川道夫/照明:加藤庄之丞/録音:海原幸夫
出演:長谷川一夫、京マチ子、山形勲、黒川弥太郎、坂東好太郎、田崎潤、千田是也、石黒達也、毛利菊枝、荒木道子、澤村國太郎

◆大映が総力を挙げて作り上げた日本初のイーストマン・カラー作品。色温度を保つために大量のライトを使って撮影しており、繊細な陰影とは程遠い。だが、強烈な色彩と平面的な絵画性が「東洋の「美」と評価され、カンヌ映画祭でグランプリを受けた。色彩指導は洋画家の和田三造。京マチ子や長谷川一夫は和田の研究所で肌の色相、明度、彩度を測定した。

 

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伊丹万作 ナンセンス時代劇の破壊力 非暴力貫いたモラリスト

 

国士無双

国士無双一九三二年/千恵蔵プロダクション・日活/デジタル/白黒/発見部分二十四分(20fps)/活弁入り 提供:マツダ映画社
監督・脚本:伊丹万作/原作:伊勢野重任/撮影:石本秀雄
出演:片岡千恵蔵、山田五十鈴、瀬川路三郎、沢村寿三郎、香川良介、香川澄江、高勢実乗、白川小夜子、渥美秀一郎、中村紅果、林誠之助、矢野武男、伴淳三郎

◆斬った張った戯画化した軽妙なナンセンス時代劇を作った伊丹万作の代表作。悲壮美に満ちた伊藤大輔の世界とは対照的だが、伊丹を片岡千恵蔵プロの脚本家として映画界に引き入れたのは伊藤だ。伊丹自身は「ナンセンスの破壊的性質は時代映画の愚かな英雄主義やいやなマンネリズムを崩壊させることに多少とも役立ちはしなかったか」と振り返る。

 

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赤西蠣太

赤西蠣太一九三六年/千恵蔵プロダクション・日活/十六ミリ/白黒/一時間十八分 提供:マツダ映画社
監督・脚本:伊丹万作/原作:志賀直哉/撮影:漆山裕茂/音楽:高橋半/設計:清水香夫留/装置:平松智恵吉/録音:塚越成治、池戸正享、山内延夫/照明:山田弘 出演: 片岡千恵蔵、杉山昌三九、上山草人、梅村蓉子、毛利峯子、志村喬、 川崎猛夫、関操、東栄子、瀬川路三郎、林誠之助、原健作)

◆雨の長屋で蠣太(片岡千恵蔵)の部屋と同僚の部屋を猫が行き来するシーンに注目。公開時のフィルムには蠣太の肩に猫がぴょんと跳び乗るショットまであったという。伊藤大輔は、旧制松山中学以来の盟友・伊丹万作の見事な猫の演出を見て、自分の映画では猫を使わないと決めた。対象を冷徹に見据える伊丹の資質を伊藤は認め、「冷眼熱手」と評した。

 

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伊藤大輔 活劇のリズムと近代劇の深み 戦前日本映画の最高峰

忠次旅日記(第三部 御用篇)

忠次旅日記(第三部 御用篇)一九二七年/日活大将軍/デジタル復元版/白黒/一時間五十一分(16fps)/サイレント 国立映画アーカイブ所蔵作品
監督・原作・脚本:伊藤大輔/助監督:由川正和/撮影:唐沢弘光
出演:大河内傳次郎、伏見直江、磯川元春、村上英二、沢蘭子、秋月信子、浅尾与昇、中村梅之助、中村時五郎、尾上多摩蔵、市川左雁次、尾上華丈

◆一九五九年のキネマ旬報で日本映画六〇年のベストワンに選ばれた傑作。失われたと思われていたフィルムが一九九一年に発見され、復元された。病に伏せた忠次の傍らで、子分の中の裏切り者をあぶりだすために、伏見直江が一人一人の名前を呼ぶシーンが見事。子分の顔が次々と現れ、緊迫感が高まる。画面ですべてを語りつくす伊藤大輔の映画術が詰まっている。

 

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御誂次郎吉格子

御誂次郎吉格子一九三一年/日活太秦/デジタル/白黒/一時間五分/白黒/スタンダード/1時間五分/活弁入 提供:マツダ映画社
監督・脚本:伊藤大輔/撮影:唐澤弘光 弁士:松田春翠
出演:大河内傳次郎、伏見直江、伏見信子、山口佐喜雄、山本禮三郎、高勢実乗、山口佐喜雄、磯川元春

◆鼠小僧次郎吉(大河内傳次郎)が恋仲となったお仙(伏見直江)と泊まった大坂の宿で、伸びたひげを触る。すると次のショットは時空を超えて、江戸の床屋でひげを剃られている次郎吉の場面になる。剃っているのはお仙を食い物にした悪辣な兄(高勢実乗)だ。そんなマッチカットの手法をはじめ、全盛期の伊藤の凄みを随所に感じさサイレント作品。

 

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下郎の首

下郎の首一九五五年/新東宝/デジタル/白黒/一時間三十七分 提供:国際放映
監督・脚本:伊藤大輔/撮影:平野好美/音楽:深井史郎/美術:松山崇/照明:佐藤快哉/録音:根岸寿夫
出演:田崎潤、高田稔、片山明彦、小沢栄、山本豊三、岡譲司、高松政雄、澤村昌之助、小森敏、三井弘次、高堂国典、浦辺粂子、瑳峨三智子、丹波哲郎

◆誠実で気のいい下郎がひょんなことか主人の仇を討つ。仇を討ったのが下郎では武士の面目が立たないと考えた主人は……。主君に見殺しにされる「下郎もの」を、伊藤は『下郎』(一九二七年)、『下郎の「首』、『この首一万石』(一九六三年)と三度も映画化した。「信義と裏切り」という主題には伊藤自身が父から聞いた父祖の宇和島藩士の物語が影を落としている。

 

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王将

王将一九四八年/大映京都/三十五ミリ/白黒/一時間三十四分 提供:KADOKAWA
監督・脚本:伊藤大輔/原作:北条秀司/撮影:石本秀雄/音楽:西梧郎/美術:角井平吉/美術助手:西岡善信/録音:海原幸夫/照明:湯川太四郎/助監督:加藤泰
出演:阪東妻三郎、水戸光子、三條美紀、坂本武、斎藤達雄、小杉勇、滝沢修、大友柳太郎、三島雅夫、香川良介、葛木香一

◆無学で貧しいが気高き魂をもった将棋棋士・坂田三吉の物語。映画はライバルである関根名人の就位祝賀会までを描くが、伊藤が一番描きたかったのは戦後に零落して死んでいく坂田の姿だったという。実際に続編も作られかけたが、主演の阪東妻三郎が病に伏し、実現しなかった。伊藤の墓前の碑に刻まれた「熱眼熱手」を地で行くような戦後の代表作。

 

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われ幻の魚を見たり

われ幻の魚を見たり一九五〇年/大映京都/十六ミリ/白黒/一時間四十七分 提供:KADOKAWA
監督・原作・脚本:伊藤大輔/撮影:石本秀雄/音楽:深井史郎/美術:角井平吉/録音:海原幸夫/照明:湯川大四郎
出演:大河内傳次郎、小夜福子、青山杉作、東山千栄子、二本柳寛、山本礼三郎、三島雅夫

◆十和田湖で幾多の困難を越えてヒメマスの養殖に成功した和井内貞行をモデルとした一代記。伊藤が久しぶりに大河内傳次郎と組んだ。『羅生門』から黒澤明のスクリプターを務めた野上照代は大映京都撮影所での見習い時代に『われ幻の魚を見たり』の撮影現場も見学し、川でロケーション撮影中の伊藤がカメラの横で涙を流しているのを目撃したという。

 

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入場料金

当日券

一般1,500円/シニア1,200円/学生・会員1,100円/高校生以下1,000円
一般3回券3,900円/シニア3回券3,300円/学生・会員3回券3,000円※劇場窓口でのみ販売

生演奏付き上映 1,800円均一(回数券、招待券不可/各種割引もご使用いただけません)

※ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券は受付窓口 で指定席をお選びの上ご購入ください。開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
前売券なども受付にて座席指定券とお引き換え下さい。1週間前よりオンライン&窓口でご購入いただけます(ただし、前売券は窓口のみ。)
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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