アッバス・キアロスタミ監督追悼特集

1970年代に児童映画で監督としてのキャリアをスタートさせたキアロスタミは、ドキュメンタリー映画を経由して、多くの批評家が彼の最高傑作とする『クローズ・アップ』に到達、それによって世界は名作『友だちのうちはどこ？』を発見することになる。90年代には今も世界の監督に影響を与え続ける映画手法と、人生への深い洞察力に満ちた映画で、映画史の巨匠のひとりとして認知されるが、今世紀に入るや確立したスタイルを捨て、映画のさらなる可能性を追求する苦渋の時代に入る。そして2010年、かつて「その土地に根ざした木を、別の土地に植えなおしても実は結ばない。映画も同じだ」と語っていたキアロスタミが、イタリア、日本そして中国（今年予定していた）で映画を撮ることを選ぶ。その変節の理由を彼は頑なに口に出すことなく、突然に逝った。

上映作品

パンと裏通り

パンと裏通り 1970年／モノクロ／35mm／11分
撮影：メヘルダッド・ファヒミ　編集：マヌチェール・オリアイ　出演：レザ・ハシェミ、メヘディ・シャハヴァンフール

●ひとりの少年がパンを抱えてやって来るが、道には恐そうな犬が通せんぼ。はたして少年は家にたどりつけるのか？キアロスタミ映画のエッセンスに溢れた処女短編作品。

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トラベラー

トラベラー 1974年／イラン／モノクロ／35mm／72分
撮影：フィルズ・マレクザデエ　出演：ハッサン・ダラビ、マスード・ザンドベグレー

●小学生のガッセムは10歳、学校では落ちこぼれで、夢中なのはサッカーだけ。テヘランで催される大事な試合を観戦するため、親のから盗み、先生にウソをつき、やっとのことでスタジアムに着くが―。あまりにひたむきな少年に笑わされ、また胸が痛くなる長篇処女作。

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友だちのうちはどこ？

友だちのうちはどこ？ 1987年／イラン／カラー／35mm／85分
撮影：ファルハッド・サバ／出演：ババク・アハマッドプール、アハマッド・アハマッドプール

●小学生のアハマッドが帰宅してみるとカバンの中に友だちのノートが！明日までに返さなければ、友だちが先生に怒られてしまう。ノートを抱え、遠い隣村までジグザグ道を走るが、家を知らない彼はいつまでたっても辿り着けない…。少年の友だちを思うまっすぐな気持ちと迷い子のような不安な気持ちとが静かな画面から流れ出す。キアロスタミの名前を世界的にした珠玉の名作。

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ホームワーク

ホームワーク 1989年／イラン／カラー／16mm／86分
撮影：イラジ・サファヴィ／出演：「シャヒッド・マスミ小学校」の生徒と先生

●通学路の途中で映画監督がキャメラを据え、登校途中の小学生たちに質問する。「宿題はやってきた？」。監督は“宿題”を通して、学校教育の現状についてのリサーチをするつもりだ。十数人の小学生とのやりとりから、子供たちの日常やイランの一般家庭の様子が浮かび上がってくる。

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クローズ・アップ

クローズ・アップ 1990年／カラー／35mm／90分
撮影：アリ=レザ・ザリンダスト／出演：ホセイン・サブジアン、ハッサン・ファラズマンド

●若い失業者で映画好きのサブジアンはある婦人に有名な映画監督に間違えられ、悪気もなくそうだと言ってしまう。映画を愛するあまり、映画好きの一家を騙してしまった主人公の顛末を描くこの作品は、実話に基づき、登場人物は全て本人が演じている。ドキュメンタリーと再現場面とがその境目をなくしながら構成され、観る者を惹き込んでゆく傑作。

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そして人生はつづく

そして人生はつづく 1992年／イラン／カラー／35mm／91分
撮影：ホマユン・パイヴァール／出演：ファルハッド・ケラドマンド、プーヤ・パイヴァール

●1990年、イラン北部を襲った大地震は『友だちのうちはどこ？』の撮影現場を直撃した。キアロスタミはすぐに被災地へ向かうが、村々は無残に崩壊し少年たちの消息も分からない。しかしそこには青々と残ったオリーブの林や、生活を建て直そうとするたくましい人間の姿があった。その体験を再現した本作は、92年カンヌ映画祭ロッセリーニ賞を受賞。

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オリーブの林をぬけて

オリーブの林をぬけて 1994年/イラン/カラー/35mm/103分
撮影:ホセイン・ジャファリアン、ファルハッド・サバ出演:ホセイン・レザイ、モハマッド=アリ・ケシャヴァーズ、タへレ・ラダニアン

●「友だちのうちはどこ?」「そして人生はつづく」に続く“ジグザグ道3部作”の最終章。「そして人生はつづく」で新婚夫婦を演じたホセインとタへレは、実際は夫婦どころかホセインが地震の前にタへレに求婚し断られていた。この事実を知ったキアロスタミは現実の二人にキャメラを向ける。ジグザグ道を舞台に現実と映画が織り重なった、みずみずしいラブ・ストーリー。

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5 five 〜小津安二郎に捧げる〜

5 five 〜小津安二郎に捧げる〜 2003年/イラン、日本/カラー/Blu-ray/74分
提供:NHK

●小津安二郎の生誕100年にあたる2003年に、NHKからの委嘱で制作された小津映画へのオマージュ作品。ロングショット、静かなリズム、自然な人物、固定カメラと小津作品の特徴を意識して演出された、小津に捧げるキアロスタミの打情詩。
■ＮＨＫ国際共同制作作品

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シーリーン

シーリーン 2008年/イラン/カラー/Blu-ray/92分撮影:ムハマード・カマリ出演:ニキ・カリミ、ゴルシフテ･ファラハニ、ジュリエット･ビノシュ

●12世紀のイランの詩人ニザーミーの情熱的な悲恋物語「シーリーン」原作の映画を、114人の女優たちが鑑賞している。悲恋のヒロインに感情移入し、クライマックスでは大粒の涙をこぼす女優たちの顔だけを次々にとらえ続けた、キアロスタミの実験作。2009年東京国際映画祭出品。日本劇場未公開。

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トスカーナの贋作

トスカーナの贋作 2010年/フランス･イタリア/カラー/DCP/106分
撮影:ルカ･ビガッツィ出演:ジュリエット・ビノシュ、ウィリアム・シメル配給:ユーロスペース

●母国イランを離れて初めて外国で撮った長編作品。トスカーナを講演で訪れたイギリス人作家が、ギャラリーを経営するフランス人女性と出会う。魔作をめぐる議論を交わしながらトスカーナを巡るうちに、二人はふとしたことから、まるで夫婦のようにふるまい始める。観客を虚実ないまぜの男女の深淵にひきずりこむラブ・ストーリー。

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ライク・サムワン・イン・ラブ

ライク・サムワン・イン・ラブ 2012年/日本･フランス/カラー/DCP/109分
撮影:柳島克己出演:奥野国、高梨臨、加瀬亮配給:ユーロスペース

●元大学教授とデートクラブで働く女子大生、そしてその恋人。三人三様の一方的な愛が一日にも満たない時間の中で絡みあい、彼らのウソとホントをめぐるかけ引きが思いもよらない幕切れに進んでいく。キアロスタミ監督が自身のロマンティシズムを主人公に投影した愛をめぐるドラマ。日本で撮影され遺作となった。