一周忌追悼特集 映画監督・小林政広
20代はフォーク歌手・林ヒロシとして活躍、20代後半はピンク映画の脚本家・小林宏一になり数々の脚本を手掛け、40代にして映画監督・小林政広となり『CLOSING TIME』を初監督。それは10代の時に見たトリュフォーの『大人は判ってくれない』に衝撃を受け、以来長く思い続けた映画監督になりたいという「夢」の実現だった。1999年から『海賊版=BOOTLEG FILM』『KOROSHI/殺し』『歩く、人』と3年連続でカンヌ国際映画祭に出品という日本人初の快挙。その後も、世界の映画祭に出品を続け、2007年の『愛の予感』はスイス・ロカルノ国際映画祭で最高賞を含む4部門同時受賞! 仲代達矢主演の『春との旅』(2010年)が自身最大のヒット作となる。半数以上の作品が自主制作映画であり、困難な財政状態の中、それでも作りたい映画だけを、ただ作り続け、まさに孤高に生きた稀有な映画監督だった。昨年8月20日に68歳で亡くなった小林政広監督を偲んで、一周忌追悼特集を開催。
小林政広監督 略歴
1954年1月6日東京生まれ。中学の頃から文章やフォークソングが好きで、自ら歌を作って歌うようになる。高校生になり、水道橋のジャズ喫茶「スウィング」でアルバイト、同僚に村上春樹がいた。感銘を受けていた高田渡と出会い師事。林ヒロシ名でフォークシンガーとして活動、高田と各地をツアーで回る。1975年、初の自主制作アルバム『林ヒロシ/とりわけ10月の風が』をリリース。ピアノに坂本龍一が参加しており、暗くて明るい彼の弾き語りが素晴らしく、「日本フォーク史上屈指の名盤」とも評価され、90年代にCD化、今も買うことができる。その後、いくつかの職種についた後、20代後半になり12歳の頃に見たトリュフォー監督の『大人は判ってくれない』の衝撃から映画監督になりたいと思った「夢」の実現を決意。そのためには、と脚本を書き始め、1982年『名前のない黄色い猿たち』で第八回城戸賞を受賞。以後、数多くのテレビドラマのほか、小林宏一の名でピンク映画の脚本も多数手がけ、1996年にモンキータウンプロダクションを設立し『CLOSING TIME』を自主製作。42歳にして初の監督デビューとなる。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で日本人初のグランプリを受賞。続く『海賊版=BOOTLEG FILM』(1998)、『殺し』(2000)、『歩く、人』(2001)と日本人初の3年連続でカンヌ国際映画祭に出品される快挙。イラクで起きた日本人人質事件に着想を得た『バッシング』(2005)は、カンヌ国際映画祭へ出品後、東京フィルメックス最高賞を受賞、2007年の監督・脚本・主演を務めた『愛の予感』はスイス・ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞など4部門受賞の快挙。カンヌ、ロカルノをはじめ世界の国際映画祭の常連となり、最も知名度の高い日本人監督のひとりとなった。しかし、そのほとんどは低予算の自主製作映画というのには驚く。厳しい財政事情の中、作りたい映画を作り続けたことは、いまの日本映画界において稀有な存在である。一方、体調を崩しアルコール依存症になり、さらに糖尿病などの病と、最後まで戦う日々となる。2010年には仲代達矢主演で『春との旅』が大ヒット、仲代とは『日本の悲劇』(2012)、『海辺のリア』(2017)の3本を監督、日本社会の問題や「老い」などをテーマにした連作となった。2013年には、韓国・全州(チョンジュ)国際映画祭の名物企画「Jeonju Digital Project(三人三色)による短編作品『逢う時は他人』を、当時住んでいた大阪で撮影。シネ・ヌーヴォを舞台に自ら映画館支配人役に扮し製作している(映画は未公開)。2022年8月20日、横行結腸がんのため、東京都内の自宅で死去。享年68。遺作は2017年の『海辺のリア』というあまりに早すぎる死去だった。
上映作品
完全なる飼育 女理髪師の恋
2003年/セディックインターナショナル/103分/35mm
監督・脚本:小林政広 原作:松田美智子 撮影:高間賢治 音楽:佐久間順平 主題歌:りりィ
出演:北村一輝、荻野目慶子、竹中直人、佐藤二朗、林泰文、中澤寛、三好栄子
◆人気シリーズ第5弾をピンク映画の脚本を数多く手掛けてきた小林が監督、「完全なる飼育シリーズ」中でも出色の作品となり、第56回ロカルノ国際映画祭特別大賞を受賞した隠れた傑作。舞台は小林作品でおなじみの北海道のさびれた街。理髪店を営むハルミ(荻野目)は、自堕落な夫(竹中)と2人で暮らしていた。ある日、思いを寄せていたケンジ(北村)が、ハルミを拉致、監禁。戸惑うハルミだったが、ケンジの献身的な愛にしだいに惹かれていき……。
フリック
2004年/エスミー/154分/デジタル
監督・脚本:小林政広 撮影:伊藤潔 音楽:佐久間順平 照明:木村匡博
出演:香川照之、田辺誠一、大塚寧々、田中隆三、松田賢二、安藤希、占部房子、葉月螢、高田渡
◆北海道苫小牧を舞台に、不可解な事件に巻き込まれていく一人の刑事の不確かな運命を描いた異色サスペンス。最愛の妻を殺害された刑事(香川)は、酒におぼれ自暴自棄になるも、ある殺人事件の捜査で同僚刑事(田辺)と苫小牧に行くことに…。小林自らそれまでの集大成と語る作品で、翌年の作品が同じ苫小牧が舞台でイラク日本人人質事件をモチーフに事件後の日常を淡々と描いた『バッシング』となり、『フリック』こそ小林作品の分水嶺となった。翌2005年に亡くなったフォークシンガー時代の師・高田渡が特別出演。
白夜
2009年/「白夜」製作委員会/84分/35mm
監督・脚本:小林政広 撮影:伊藤潔 音楽:佐久間順平 照明:木村匡博 録音:吉田憲義
出演:眞木大輔、吉瀬美智子
◆小林が憧れのトリュフォーに会いたいと27歳の時にフランスを旅した際に訪れた街リヨン。「映画発祥の地、リュミエール兄弟の暮らした街で映画を撮ろう」とその時思った夢を27年後に実現。人生の岐路に立ち、思い悩むふたりの男女が、リヨンの赤い橋の上で偶然に出会う。名前も素性も知らないふたりは、時の流れるまま惹かれあうが……。「いつか、リュミエール兄弟の映画のような、小さくても宝石のような輝きのある作品を作りたい」と願った小林がオール・リヨンロケで撮影したラブストーリー。
春との旅
2010年/「春との旅」フィルムパートナーズ/134分/35mm
監督・脚本:小林政広 撮影監督:高間賢治 音楽:佐久間順平 美術:山﨑輝 照明:上保正道
出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、淡島千景、田中裕子、小林薫、柄本明、香川照之、戸田菜穂
◆4月の北海道。孫(徳永)に面倒を見られながら静かに余生を過ごす元漁師の忠男(仲代)は、人生最後の住まいを求め、親戚縁者を訪ねる旅に出るが……。仲代が小林の脚本を読んで絶賛。その後、3本の映画を作る最初のコンビ作。日本映画を代表する俳優たちが結集。順撮りオールロケの映像は限りなく美しく、人生の転機を迎え生きることの素晴らしさと厳しさを優しさに満ちた眼差しで、ペーソスたっぷりに描いた傑作。淡島千景は仲代の姉を演じ本作が遺作となった。映画も好評で小林最大のヒット作となった。
海辺のリア
2017年/「海辺のリア」製作委員会/105分/DCP
監督・脚本:小林政広 撮影:神戸千木、古屋幸一 音楽:佐久間順平 美術:鈴木隆之
出演:仲代達矢、黒木華、原田美枝子、小林薫、阿部寛
◆仲代と出会うことで、「老い」と日本の高齢化社会の問題をテーマに3本撮った小林の遺作。シェイクスピアの「リア王」を下敷きに、半世紀以上のキャリアを誇るも現在は認知症の疑いがあり、家族に見放された往年のスターの姿を描く。自らを投影したかのような役柄を仲代が名演。老人ホームに入れられた仲代が、ホームを脱役柄を仲代が名演。老人ホームに入れられた仲代が、ホームを脱走。パジャマ姿のまま辿り着いた先は海辺。そこは仲代の「無名塾」公演舞台の「能登演劇堂」近くの石川県の千里浜海岸。人生最後の舞台を海辺で繰り広げる仲代の壮絶なラストシーンは、小林のラストカットとなった。
イベント
8/20(日)12:55〜『春との旅』上映後トークショー
ゲスト:大力拓哉さん(映画監督)、三浦崇志さん(映画監督)
入場料金
前売券
●料金=一般1,100円/会員1,000円
当日券
●料金=一般1,500円/シニア1,200円/会員・学生1,100円/高校生以下1,000円
※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。(※回数券のご購入、ご予約は窓口のみ)
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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