没後十年 黒木和雄映画祭

黒木和雄黒木和雄 略歴
◆1930年11月10日、母親の実家である三重県松阪生まれ。神戸、宮崎県飯野町(現えびの市)を経て、5歳のときに父の仕事先である旧満州に家族と渡る。同地で小学生にして映画に熱狂する。12歳のときに中学受験のため家族と離れ、祖父母の住む宮崎県飯野町に帰る。43年小林中学に入学、45年学徒動員され、5月8日に沖縄から飛来したグラマン機の攻撃で学友10名を一瞬にして失う。その体験からノイローゼになり、一年間休学。47年新制高校となった小林高校に復学。50年同志社大学政治学科に進み岡本清一ゼミで学ぶ。◆学生運動に身を投じたのち、54年中退、東映京都に入るが、すぐに岩波映画製作所演出部に入社。『佐久間ダム』(高村武次監督)、『ひとりの母の記録』(京極高英監督)などの助監督に付く。58年、短編『東芝車両ELECTRIC ROLLING STOCK of Toshiba』で初監督。59年の『海壁』、翌年の『ルポタージュ・炎』でPR映画ながら作家主体性を盛り込み評価を集める。やがて仏ヌーヴェル・ヴァーグに衝撃を受ける。また土本典昭、東陽一、小川紳介、大津幸四郎、久保田幸雄、鈴木達夫、岩佐寿弥らと「青の会」を結成。映画を貪欲に見、語り合う。『わが愛北海道』(62年)の劇映画的なつくりで決定的に会社と対立し退社。64年、孤独なマラソンランナー・君原健二を描いたドキュメンタリー『あるマラソンランナーの記録』で高い評価を得る。しかし、黒木の独創的な映画つくりは、PR映画の枠を超えるもので、次々とトラブルを重ねてきた歴史でもあった。◆64年、友人の松川八洲雄が企画を持ち込んでくれたことから初の劇映画『とべない沈黙』を撮る。しかしまたも「わけのわからない映画」としてオクラ入りするが、映画を見た評論家、映画人たちが高く評価し、66年にATGでようやく公開。斬新な表現と現代性で熱狂的なファンを生む。続いて『キューバの恋人』(69年)、『日本の悪霊』(70年)、『竜馬暗殺』(74年)、『祭りの準備』(75年)と意欲作を発表。とりわけ『竜馬暗殺』は圧倒的な評価を得て、その後の映画を志す若者たちに大きな影響を与えた。またその現代性、即興性に打たれた勝新太郎によりTV作品の演出に招かれ、「新・座頭市」「警視-K」などの演出者の一員ともなる。80年代以降も、『夕暮まで』(80年)、『泪橋』(83年)、長崎原爆投下の24時間を描いた『TOMORROW/明日』(88年)でキネマ旬報日本映画監督賞と年々評価が高まる。『人情紙風船』(37年)を見て感銘を受け、83年に文芸坐社長・三浦大四郎とともに山中貞雄の菩提寺・京都大雄寺で「第1回山中忌」を主宰。90年には久々の時代劇『浪人街』を完成後、体調を崩し入院。また『浪人街』も勝新太郎の麻薬事件で公開が半年も遅れるなど不運が重なる。入院は半年にわたる長期となる。その後、体調の回復を図るとともに、テレビ作品をいくつか仕上げる。97年1月のシネ・ヌーヴォ開館の際には顧問に就任。亡くなるまで、大きな励ましをいただき続けた。またこの年、東京アテネ・フランセ文化センター、シネ・ヌーヴォ梅田で特集上映が行なわれる。◆2000年に10年ぶりの劇映画『スリ』で復帰。翌年、自らの戦争体験を描いた『美しい夏キリシマ』を故郷えびの市の実家でクランクイン。キネマ旬報ベストテン1位・監督賞など高い評価を受ける。続く広島原爆が題材の『父と暮せば』は高い評価に加え興行も成功し、70歳にして売れっ子監督となり数々の企画が入るようになる。しかし、本人のライフワークは山中貞雄伝を撮ることだった。わずか28歳で中国戦線で戦病死した希代の天才監督の映画化を20数年間熱望。毎年秋の命日に山中忌を主宰し、山中への想いを深めるとともに何人かの劇作家とシナリオを完成するが実現に至らず、最後まで映画化を熱望していた。◆遺作となったのは、戦争を題材にした4作目『紙屋悦子の青春』(06年)。その完成後、公開を待たずに2006年4月12日急死。享年75歳。寄しくもその日は『紙屋悦子の青春』の最後の場面と同じ日であった。6月9日「黒木和雄監督とのお別れ会」が東京・日本青年館で開かれ、関西では母校・同志社大学で6月22日に「偲ぶ会」が催され、たくさんの映画ファンが別れを惜しんだ。生前、同志社大学岡本ゼミの同級生たちと京都・鳴滝に共同墓「自由の碑」を建立。そこで仲間たちと永眠。2016年、没後10年を迎えた。

上映作品

徹底的に自由を愛し、心底から戦争を憎んだ黒木和雄監督。温厚な風貌にも、反権力の熱い魂を秘めた屈指の映画監督だった。
映画ファンを虜にした劇場デビュー作『とべない沈黙』、傑作『竜馬暗殺』『祭りの準備』、いま見直すべき大問題作『原子力戦争』、そして戦争レクイエム四部作と迷いながらも思考され、美学へと結実していった作品群―
―没後十年を迎え、いまこそ見たい!黒木和雄劇映画全作品など一挙上映!!

あるマラソンランナーの記録

あるマラソンランナーの記録1964年/東京シネマ/16ミリ/スタンダード/カラー/63
分/製作:岡田桑三/監督:黒木和雄/撮影:江連高元/照明:浅見良二/録音:加藤一郎/音楽:池野成/助監督:泉田昌慶/ナレーター:城達也

♦日本ドキュメンタリー映画史に残る傑作。東京五輪を控え最も注目されたマラソンランナー・君原健二が、膝の故障によるスランプを抱かえながらも克服する姿を半年間追う。走る渦中の顔を追い続ける長回し、その呼吸音と足音の前景化、君原の談話を画面にカブせるだけの寡黙な手法で製作。あまりの実験的な内容で会社側と紛糾。当初の予定題「青年」を本題に変更するも会社は拒否。そのためスタッフ・タイトルが入っていないが、その後質の高さを認められ、日活で劇場公開された。なお、君原は東京五輪で結果は8位、銅メダルを獲た円谷幸吉はその後自殺。再び東京五輪を迎える今、見直すべき傑作!

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とべない沈黙

とべない沈黙1966年/日映新社+東宝/35ミリ/スタンダード/モノクロ/105分/製作:堀場伸世、三輪孝一/製作協力:中島正幸/監督:黒木和雄/脚本:松川八洲雄、岩佐寿弥、黒木和雄/撮影:鈴木達夫/撮影協力:奥村祐二/照明:海野義雄/美術:山下宏/録音:加藤一郎/編集:黒木和雄/音楽:松村禎三/助監督:東陽一/スチール:森山大道 ■出演:加賀まりこ、平中実、小沢昭一、長門裕之、坂本スミ子、戸浦六宏、日下武史、山茶花究、蜷川幸雄、小松方正、渡辺文雄、田中邦衛、千田是也、東野英次郎

◆黒木の劇映画第一作で、一時オクラ入りしていたがATG系で公開された。北海道にはいないはずの南国蝶(ナガサキアゲハ)を少年が捕まえる。しかしその存在は教師に否定され、蝶は廃棄される。それをプロローグに映画は、その少年を目指して蝶の化身(加賀まりこ)が生地長崎から北海道に向かう過程を、場所場所に分けたオムニバス的形式で描きはじめる。広島では被爆した少女、京都では戦争で青春を失った中年男をはじめ、萩、大阪、横浜、東京など日本列島を縦断しながら、戦争と時代に翻弄された人間たちの痛烈な思いが、ごった煮的なエピソードの中で炸裂する。息を呑む映像美と多彩な細部は黒木作品のトレードマークとなる。浮遊する蝶の姿は満州帰りの黒木自身の姿とも重なり、その後『美しい夏キリシマ』でも登場する。

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キューバの恋人

キューバの恋人1969年/黒木プロダクション+キューバ国立映画芸術協会/35ミリ/スタンダード/モノクロ/101分/製作:土本典昭、オルランド・デラウェルタ、浅野龍麿/監督:黒木和雄/脚本:阿部博久、加藤一郎、黒木和雄/脚本協力:長谷川四郎/撮影:鈴木達夫/録音:加藤一郎/音楽:松村禎三/監督補佐:播磨晃/助監督:片山龍峯/記録映像:中平卓馬/企画協力:竹中労 ■出演:津川雅彦、ジェリー・プラセンシア、グロリア・リー、アルマンド・ウルパチ、フィデル・カストロ

◆ハバナにやってきた日本青年アキラが、現地でタバコ工場の女工マルシアと会う。キューバの革命精神に奉ずる彼女と、彼女に愛を説くアキラの愛を描くとともに、キューバという幻の革命の聖地の、貧困と明るさの実相がドキュメントされる。採取された現地音楽と松村禎三の音楽の調和も見事。1959年のキューバ革命から10年を機に製作され自主上映により公開。しかし学生運動の昂揚期に、水を差す映画と受け止められ、上映は不調。膨大な借財を背負う。キューバ、アメリカの今後、11月のフィデル・カストロ死去など、急変する政情の中で、改めて見つめたい一本。なお、キューバ出身の新鋭カルロス・M・キンテラ監督が、本作のその後をイメージし、2016年に河瀬直美プロデュース、藤竜也主演で『東の狼』を奈良で製作している。

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日本の悪霊

日本の悪霊1970年/中島プロダクション+日本アート・シアター・ギルド/35ミリ/スタンダード/モノクロ/90分/製作:中島正幸、福地泡介/監督:黒木和雄/原作:高橋和己/脚本:福田善之/撮影:堀田泰寛/照明:岩崎定雄/美術:平田逸郎/録音:安田哲男/編集:田村嘉男/音楽:岡林信康、早川義夫/助監督:山崎佑次、後藤幸一 ■出演:佐藤慶、高橋辰夫、観世栄夫、榎本陽介、高橋美智子、土方巽、岡林信康、渡辺文雄、殿山泰司、夏文彦、田中小実昌/出演協力:早稲田小劇場/語り:黒木和雄

◆50年代の学生運動でともに挫折体験をした強盗犯と刑事の取調べ過程を描く高橋和己の同名小説を福田善之が大胆に脚色。強盗犯と刑事の相似性を、佐藤慶の二役と役柄交替によって表現(しかも役柄の弁別は徐々に不能になる)、そこにヤクザ映画のパロディを盛った。黒木演出もこの要素の混淆に応えるべく、岡林信康の歌唱、性愛シーン、さらには虚構の解体場面を加え、作品を過激に「ブレヒト化」している。当時、「フォークの神様」と呼ばれた岡林を起用するなど、時代の空気をも鮮やかに描き切った秀作。70年ATG正月作品として公開され、黒木初のヒット作となった。

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竜馬暗殺

竜馬暗殺1974年/映画同人社+日本アート・シアター・ギルド/35ミリ/スタンダード/モノクロ/119分/製作:黒田征太郎、富田幹男、葛井欣士郎/監督:黒木和雄/脚本:清水邦夫、田辺泰志/撮影:田村正毅/照明:上村栄喜/美術:山下宏/美術協力:内藤昭/録音:加藤一郎/編集:浅井弘/音楽:松村禎三/殺陣:久世竜/助監督:後藤幸一 ■出演:原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、松田優作、桃井かおり、粟津號、野呂圭介、外波山文明、田村亮、山谷初男、田中春男、平泉征

♦坂本竜馬暗殺までの3日間を追い、観客から圧倒的な支持を得た初の時代劇。近眼、革靴履きの竜馬像が新鮮。黒木演出はここでもブレヒト的だ。討幕派の内ゲバには当時の学生運動の状況を写し、「ええじゃないか」との対比により竜馬の目指した革命の大衆性が測られ、無声時代劇の呼吸を字幕のリズムに重ねる。清水演劇ゆかりの原田、石橋の融通無碍なアドリブ演技により、互いを殺せない幼馴染みの身体性が画面に定着され、結果ニューシネマ風友情映画の傑作ともなった。かつて学生時代の友人たち、そして映画仲間など、生涯友情を育んだ黒木の姿とも重なる名作。本作を見て、映画を志した映画人多数。黒木の最高傑作とも言える一本。

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祭りの準備

祭りの準備1975年/綜映社+日本アート・シアター・ギルド/35ミリ/ビスタ/カラー/117分/製作:大塚和、三浦波夫/監督:黒木和雄/脚本:中島丈博/撮影:鈴木達夫/照明:伴野功/美術:木村威夫、丸山裕司/録音:久保田幸雄/編集:浅井弘/音楽:松村禎三/監督補:後藤幸一 ■出演:江藤潤、原田芳雄、ハナ肇、馬渕晴子、浜村純、竹下景子、湯沢勉、杉本美樹、桂木梨江、水戸部スエ、絵沢萠子、芹明香、犬塚弘、森本レオ

◆中島丈博の自伝的脚本の映画化。高知県中村市を舞台に、脚本家志望の青年が東京に旅立つまでを、昭和30年代の時代色たっぷりに描く。登場人物個々が猥雑で強烈。隣家には犯罪者兄弟が住み、兄弟間で兄嫁を共有するし、隣家の妹がヒロポン中毒により白痴化した状況で帰郷すると主人公の祖父が性交してしまうなどの描写があるが、その個々が人間の悲喜劇へと昇華する。その結果、中村市自体が主役だという作品の普遍性が生まれる。ラスト、故郷を旅経つ江藤潤に、原田芳雄が叫ぶ「バンザーイ!」が忘れられない。群像劇を愛した黒木の代表作。

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原子力戦争

原子力戦争1978年/文化企画プロモーション+日本アート・シアター・ギルド/35ミリ/ビスタ/カラー/106分/製作:西山哲太郎、友田二郎/企画:多賀祥介/監督:黒木和雄/原作:田原総一朗/脚本:鴨井達比古/撮影:根岸栄/照明:伴野功/美術:丸山裕司/録音:安田哲男/編集:浅井弘/音楽:松村禎三/助監督:後藤幸一 ■出演:原田芳雄、山口小夜子、佐藤慶、風吹ジュン、浜村純、岡田英次、戸浦六宏、磯村みどり、草薙幸二郎、和田周、水戸部スエ

◆田原総一朗の同名ルポルタージュの一部をミステリー仕立てに換骨奪胎した作品。福島の第一原発の城下町・いわき市小名浜でオールロケを敢行。秘匿される放射能漏れ事故、過疎化する村と巨大化した原発利権戦争に、情婦の心中の真相を追って都会からやってきたヤクザ(原田)が巻き込まれるサスペンス。原田が、実際に福島第一原子力発電所の正面ゲートから無許可で入ろうとして、門衛に撮影を止められるドキュメンタリー場面も挿入。翌年起こったアメリカのスリーマイル島の原発事故を予感させる映画どころか、2011年の原発事故をも告発した映画となった。まさにここで、チャイナシンドローム(炉心溶融)が起こったのだ! その4年前に亡くなった黒木が、このことを知っていたら…。しかし、利権を優先する政権は、いまも原発推進を止めようとしない。怒りを持って黒木の遺した本作を見ようではないか!

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夕暮まで

夕暮まで1980年/アートセンター/35ミリ/ビスタ/カラー/110分/製作:三浦波夫、大塚和/プロデューサー:中田新一/監督:黒木和雄/原作:吉行淳之介/脚本:浜地一朗、田辺泰志/撮影:鈴木達夫、田村正毅/照明:伴野功/美術:山下宏、内田欣哉/録音:加藤一朗/編集:鈴木晄/音楽:荒木一郎/助監督:内藤忠司 ■出演:桃井かおり、伊丹十三、加賀まりこ、山口美也子、馬渕晴子、原田芳雄、風間杜夫、江藤潤、殿山泰司、水戸部スエ、石橋蓮司、原田芳雄

◆ATGから離れ、初めて東宝配給により黒木が手がけた娯楽映画。中年作家が若い女と交情を重ねる。だが結婚まで処女を望む女は「素股」セックスしか許さない。二人の仲は、ついに実際の交合にと変質する。初期黒木的なイメージ・シーンが組み込まれるほか、「性」を感じさせる食事シーンが連打される。中年男性と若い女性の愛人カップルを「夕暮れ族」という流行語を生んだ吉行淳之介原作の映画化。さすがに黒木映画とはいささか異なり、自信のもてないシナリオで撮影に入ったことから現場で迷い、桃井かおりとトラブルを起こすも、公開されるや驚きのヒットとなった。

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泪橋

泪橋1983年/人間プロダクション/35ミリ/ビスタ/カラー/118分/製作:加藤晃夫(長門裕之)/プロデューサー:後藤幸一/監督:黒木和雄/原作:村松友視/脚本:唐十郎、村松友視/撮影:大津幸四郎/照明:岩崎豊/美術:木村威夫/美術補佐:丸山裕司/録音:加藤一郎/編集:鈴木晄/音楽:松村禎三/助監督:高橋安信 ■出演:渡瀬恒彦、佳村萠、原田芳雄、瀬川新蔵、殿山泰司、藤真利子、不破万作、藤田進、長門裕之、伊藤克信、福地抱介、原日出子、風間杜夫、宮下純子、清水まゆみ、三谷昇、石橋蓮司、金子信雄、浜村純

◆土地描出に冴えをみせる黒木が本作で焦点を当てたのは鈴ヶ森界隈の下町風情、そしてそこに架かる橋。この橋は、鈴ヶ森の刑場に送られる罪人が、縁者と最期の別れをした泪橋だ。百科事典のセールスマン渡瀬恒彦がかつて逃げこんだ泪橋近くの老人の家を再訪し、そこで彼は以前と同じ歓待を受ける。10年前に逃げ込んだ時は、羽田闘争で警察に追われた全共闘学生と間違えられていた。いまはそこに子細さりげな少女が囲われていて、二人はやがて夢幻的な恋に落ちる…。ほかに老人たちの性への妄執、古典芝居「鈴ヶ森」との二重写し、千石イエス、近親相姦、オフィリア幻想など黒木好みの雑多な要素も満載される。
※フィルムが劣化していることを予めご了承ください

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TOMORROW/明日

TOMORROW 明日1988年/ライトヴィジョン+沢井プロダクション+創映新社/35ミリ/ビスタ/カラー/105分/製作:鍋島壽夫/監督:黒木和雄/原作:井上光晴/脚本:黒木和雄、井上正子、竹内銃一郎/撮影:鈴木達夫/照明:水野研一/美術:内藤昭/録音:井家真紀夫/音楽:松村禎三/編集:飯塚勝/助監督:月野木隆 ■出演:桃井かおり、南果歩、仙道敦子、水島かおり、荒木道子、賀原夏子、原田芳雄、長門裕之、馬渕晴子、田中邦衛、黒田アーサー、佐野史郎、岡野進一郎、殿山泰司、三谷昇、絵沢萠子、なべおさみ、伊佐山ひろ子、入江若葉、横山道代、森永ひとみ

♦長崎の原爆投下までの市井の人々の24時間を捉える。原作のフォークナー的構成はすべて現在進行形に改められ、主婦ライター井上正子が脚本に加わって生活感も加味された。南果歩の結婚式、その後の桃井かおり、南果歩、仙道敦子三姉妹の「出産」「初夜」「恋人との別れ」。爆心地から半径2キロ以内に舞台は限定され、その場所がやがて喪失する相に置かれるのも黒木的。翌朝11時近くになり時間の進行が早まって、画面は閃光に包まれる…。核は人類に対する大罪とする黒木の祈りに満ちた傑作であり、この年の映画賞を総なめした。戦争を銃後の人々の悲劇として描く黒木の戦争レクイエム第1作。

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浪人街

浪人街1990年/山田洋行ライトヴィジョン+松竹/35ミリ/ビスタ/カラー/117分/製作:鍋島壽夫、足立侃三郎、務台猛雄/総監修:マキノ雅広/監督:黒木和雄/原作:山上伊太郎/脚本:笠原和夫/撮影:高岩仁/照明:美間博/美術:内藤昭/録音:加藤一郎/編集:谷口登司夫/音楽:松村禎三/監督補:南野梅雄/特別協力:宮川一夫 ■出演:原田芳雄、勝新太郎、樋口可南子、石橋蓮司、田中邦衛、杉田かおる、佐藤慶、中尾彬、伊佐山ひろ子、絵沢萠子、長門裕之、天本英世、紅萬子

◆貧乏浪人たちが夜鷹斬りを続ける旗本一味に挑む。黒木演出は日本映画史に残る名作『浪人街』(1928年)とは「真逆」に描く。江戸下町の一膳めし屋“まる太”で、町の用心棒・赤牛弥五右衛門(勝新太郎)と新顔の荒牧源内(原田芳雄)が店の払いをめぐって対立するが…。原田によれば、「ジャム・セッションのような現場」で、とくに創造的な演技変化を生み続ける勝の比重が現場で増していった。マキノ正博の名作は暗く左翼的傾向が強かったが、黒木もアナーキーなスタイルながら、全共闘の合言葉「連帯を求めて孤立をおそれず」を本作の主題に重ねていた。17分にも及ぶ終幕の立ち回りシーン(Bキャメが宮川一夫)が話題になった。勝新太郎パンツ事件で一旦公開延期になるもファンの声によりその後無事公開された。

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スリ

スリ2000年/アートアートポート+衛星劇場/35ミリ/ビスタ/カラー/112分/製作:松下順一、石川富康/企画:加藤東司、深田誠剛/プロデューサー:米山紳、松岡周作、日向寺太郎/監督:黒木和雄/脚本:真辺克彦、堤泰之、黒木和雄/撮影:川上皓市/音楽:松村禎三/美術:木村威夫/録音:久保田幸雄/ 照明:磯崎英範/ 助監督:大崎章/ 挿入歌:「weathers」 hal ■出演:原田芳雄、風吹ジュン、石橋蓮司、真野きりな、柏原収史、平田満、香川照之、川島郭志、岸本祐二、hal、真理明美、北見マキ、すまけい、伊佐山ひろ子

◆『浪人街』を完成後、体調を崩し半年も入院することになった黒木の10年ぶりの監督作品。アル中のスリと、彼を取り巻く男女の哀しくもおかしい人間模様を描く。『竜馬暗殺』の原田芳雄、石橋蓮司のコンビが、今度はスリと彼を追うベテラン刑事に扮し、奇妙な友情(?)を演じるのがおかしい。ブレッソンの同名作品に敬意を表しつつ、熟練テクニックであるスリの仕事ぶりをドキュメンタリータッチで捉えながら、酒浸りの毎日で指が震え仕事にならない彼の悲喜もろもろを描いた人間ドラマ。肩肘張らない演出で、黒木の健在ぶりを示し、絶賛された傑作。

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美しい夏キリシマ

美しい夏キリシマ2003年/ランブルフィッシュ/35ミリ/シネスコ/カラー/118分/パンドラ配給/プロデューサー:仙頭武則/製作統括:中村哲也/制作担当:金子堅太郎、森井輝/ラインプロデューサー:金森保/監督:黒木和雄/脚本:松田正隆、黒木和雄/撮影:田村正毅/音楽:松村禎三/美術:磯見俊裕/録音:久保田幸雄/照明:佐藤譲/編集:阿部亙英/助監督:原正弘/音響効果:帆苅幸雄 ■出演:柄本佑、原田芳雄、牧瀬里穂、小田エリカ、石田えり、左時枝、香川照之、中島ひろ子、宮下順子、寺島進、入江若葉、甲本雅裕、眞島秀和

◆終戦当時15歳の少年だった黒木和雄が、終世忘れることのできない痛切な体験をもとに、次世代に向けて渾身の力で描いた群像劇。描かれるのは戦場ではなく、銃後の九州・宮崎の美しい村。そこには、多感な15歳の少年の青春と、悲しみ、笑い、愛し合いながらも懸命に生きた人々の姿があった。戦争という暴力は、戦場で戦う兵士だけでなく、銃後に生きるこれらの人々にも向けられている事実を、映画は静かに、そして温かくも哀しい庶民の日常の視点から描き出している。今こそ伝えたいという熱い思いから生まれ、数々の映画賞に輝き、未来に向けて語り継がれるべき名作!

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父と暮せば

父と暮せば2004年/衛星劇場+バンダイビジュアル+日本スカイウェイ+テレビ東京+メディアネット+葵プロモーション+パル企画/35ミリ/ビスタ/カラー/100分/企画:深田誠剛/製作:石川富康、川城和実、張江肇、金澤龍一郎、松本洋一、鈴木ワタル/監督:黒木和雄/原作:井上ひさし/脚本:黒木和雄、池田眞也/撮影監督:鈴木達夫/美術監督:木村威夫 /音楽:松村禎三/録音:久保田幸雄/照明:三上日出志/美術:安宅紀史/編集:奥原好幸/VFXプロデューサー:大屋哲男/助監督:水戸敏博 ■出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信

♦『TOMORROW/明日』で長崎原爆をみつめた黒木が、広島原爆をテーマに描いた傑作。井上ひさしの傑作戯曲「父と暮せば」の映画化。広島の原爆投下から3年、生き残った後ろめたさから幸せになることを拒否し、苦悩の日々を送る主人公・美津江。そんな娘を案じ亡霊として舞い戻った父・竹造との、励まし、悲しみを乗り越え、未来に目を向けるまでの4日間を描いた感動作。『TOMORROW/明日』『美しい夏キリシマ』とともに「戦争レクイエム」三部作と評された。黒木自らが「原節子の再来だ!」と絶賛した娘・美津江を演じた宮沢りえが素晴らしい。

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紙屋悦子の青春

紙屋悦子の青春2006年〈遺作〉/バンダイビジュアル+アドギア+テレビ朝日+ワコー+パル企画/35ミリ/ビスタ/カラー/113分/製作:川城和実、松原守道、亀山慶二、多井久晃、鈴木ワタル/企画:深田誠剛、久保忠佳、梅沢道彦/監督:黒木和雄/原作:松田正隆/脚本:黒木和雄、山田英樹/音楽:松村禎三/美術監督:木村威夫/撮影:川上皓市/照明:尾下栄治/録音:久保田幸雄/美術:安宅紀史/編集:奥原好幸/助監督:清水俊悟 ■出演:原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、小林薫、本上まなみ、和田周、角田一雄、西山麻矢

◆75歳を過ぎ人気監督となった黒木は「山中貞雄伝」の映画化を熱望するも脚本作りが難航。先に取り掛かったのが、その脚本のコンビを組んだ松田正隆の戯曲だった。「戦争レクイエム」三部作に続き、戦争という暴力による悲劇を四度見つめるとともに、友情の大切さを訴える渾身作だった。敗色濃厚な第2次大戦末期、特攻で死に行く男が愛する女性を親友に託そうとする男女3人の出会いと痛切な別れを情感豊かに描く。映画の最後の場面の日付となった4月12日、その日が黒木の命日となった。そして、あの時代の空気が色濃くなっている今、決して繰り返してはならない戦争の道への訣別、平和の尊さを、声高ではなく庶民の眼差しから描き出している。

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映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い

映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い2016年/パル企画+コピーライツファクトリー/デジタル/ビスタ/カラ―/91分
監督:後藤幸一/製作:鈴木ワタル/プロデューサー:岩村修
撮影:高間賢治、田中一成、板谷秀彰、中岡幸一/編集:鵜飼邦彦/ナレーター:尾又淑恵/語り:佐野史郎
音楽:『ヒロシマそして終焉から』秋吉敏子 JazzOrchestra featuring ルータバキン

◆戦争レクイエム四部作」など数々の名作を世に送り出し、2006年に急逝した黒木和雄監督。戦争を憎みながらも、近年の日本について、いつか来た道という危機感を抱いていた。監督の助監督を務めた後藤幸一監督が、黒木監督の肉声や作品、そして様々な人々へのインタビューを行い、黒木監督の想いを次世代に伝えようと製作した渾身作!

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イベント

1/7(土)14:15 トーク=後藤幸一監督  ※『かよこ桜の咲く日』の上映後に行います。

1/8(日)10:20 トーク=後藤幸一監督 ※、『映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い』の上映後に行います。

入場料金

前売券

前売1回券1,200円/前売5回券5,000円/期間中フリーパス券20,000円(限定20枚)
※前売券は、劇場窓口、チケットぴあ、セブンイレブン、サークルKサンクス(以上Pコード:467-066)他にて好評発売中!
※前売券、フリーパス券は「没後十年黒木和雄映画祭」、1/21(土)からの「東陽一映画祭」の両方でご使用いただけます。
※フリーパス券は劇場窓口のみのお取扱いとなります。2.5×2.5cmの顔写真(免許証などの写真のコピー可)をご用意ください。

当日券

一般1,400円/学生1,200円/シニア1,100円/会員1,000円/当日5回券6,000円/シニア5回券5,000円/会員5回券4,500円
ただし、『映画作家 黒木和雄 非戦と自由への想い』は、当日:一般1700円、学生1400円、シニア1100円、会員・高以下1000円/前売1000円※「黒木和雄映画祭」の前売券でもご入場いただけます。

※連日朝より当日分の整理番号つき入場券の販売を開始します。
ご入場は各回10〜15分前より整理番号順となりますので、前売券なども受付にて入場券とお引き換えください。

スケジュール

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