生誕120年 成瀬巳喜男レトロスペクティブ
成瀬巳喜男の63年の生涯には89本の作品がある。女の命運の影にあぶり出される写絵のような時代のドラマ。その翻弄の日々に、どこまでも哀しみが透徹していく。成瀬自身の慎ましい生涯の姿に潜むかくも激しい命の声を私たちはいまあらためて聞きはじめる…。
溝口健二、小津安二郎、黒澤明と並ぶ日本を代表する映画監督・成瀬巳喜男。日常生活の心理の綾を至高の映像表現に昇華させた世界的巨匠。スタジオの量産システムのなかで活躍し、日本映画の黄金期を駆け抜けたメロドラマのアルチザン。サイレント期の傑作から、戦後『めし』に続く「夫婦もの3部作」や、原節子、高峰秀子を主演に手がけた数々の女性映画の傑作群。1999年、オープン間もない当館で特集上映し、各回満席という空前の大反響となった成瀬巳喜男特集。生誕120年を迎え、26年ぶりに再びフィルム作品で上映可能な36本を一挙上映する歴史的レトロスペクティブ。成瀬作品と出会う至福の時!!
成瀬巳喜男 略歴
1905(明治38)年8月20日、東京市四谷(新宿区若葉町)生まれ。工手学校を卒業後、松竹蒲田撮影所に入り小道具係を経て助監督となる。監督デビューは30年の『チャンバラ夫婦』。33年の『君と別れて』『夜ごとの夢』で認められる。35年、P.C.L.(東宝の前身)に移籍し、同年のトーキー第1作『乙女ごゝろ三人姉妹』、続く『二人妻 妻よ薔薇のように』と高い評価を受け、後者はキネマ旬報ベストテン第1位に輝き、名声を確立。戦時体制が深まる中、『鶴八鶴次郎』(38)、『旅役者』(43)、『芝居道』(44)などの「芸道もの」や『まごころ』(39)、『秀子の車掌さん』(41)など戦時下の日常をとらえた作品を手がける。戦後は初めての原節子主演、初めての林芙美子原作となった『めし』(51)が絶賛され、同じく上原謙が夫を演じた『夫婦』(53)、『妻』(同)と倦怠期の夫婦を描き、この3作は「夫婦もの三部作」と称され高い評価を得た。林芙美子原作は、『稲妻』(52)、『晩菊』(54)、『浮雲』(55)と続き、特に『浮雲』はキネマ旬報第1位に留まらず映画史上の傑作として世界から高い評価を獲得。また川端康成『山の音』(54)、室生犀星『あにいもうと』(53)、幸田文『流れる』(56)、岸田国士『驟雨』(同)、士徳田秋聲『あらくれ』(57)など質の高い文芸映画を数多く手掛けている。映画の黄金期、脚本家、カメラマン、美術、照明など成瀬を支えた高度なスタッフ・ワークとともに、原節子、高峰秀子、田中絹代、杉村春子、山田五十鈴、岡田茉莉子などの女優陣の存在感を得て、スクリーンに女性の心の機微を繊細に描き続けた日本映画屈指の巨匠として揺るぎない評価を得た。60年代も数々の名作を発表したが『乱れる』(64)の成功を受けて製作された『乱れ雲』(67)が遺作となった。69年7月2日没。80年代以降、各国の映画祭で特集上映が開催され、世界で映画人たちが敬愛する世界的巨匠となった。2025年、生誕120年を迎える。
上映作品
夜ごとの夢
1933年/松竹蒲田/白黒/64分/サイレント/35mm
監督・原作:成瀬巳喜男/脚本:池田忠雄/撮影:猪飼助太郎/美術:浜田辰雄
出演:栗島すみ子、斎藤達雄、吉川満子、小島照子、坂本武、飯田蝶子、新井淳、大山健一
◆戦前の大恐慌時代の日本、息子を養うために港町の酒場で働く子持ちの酌婦(栗島)の元に、二人を置き去りにしていた夫(斉藤)が突然帰ってくる…。底辺に生きる人々に愛惜を込めて描いたサイレント時代の成瀬の代表作。戦前屈指の人気女優・栗島すみ子の貴重な主演作。
★鳥飼りょうさんピアノ伴奏付上映(特別料金)
乙女ごゝろ三人姉妹
1935年/P.C.L./白黒/75分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:川端康成/撮影:鈴木博/音楽:紙恭輔/装置:久保一雄
出演:細川ちか子、堤真佐子、梅園龍子、林千歳、松本千里、三條正子、松本万里代、大川平八郎
◆浅草を舞台に、門付け芸人の母を持つ年頃の三姉妹の人生模様を描く川端康成『浅草の姉妹』の映画化。トーキーを撮るために松竹からP.C.L.に移籍した成瀬初のトーキー作品。ナレーションの挿入や、もの悲しい三味線の音色など、トーキーならではの音響効果が光る。浅草の風情も見所。
二人妻 妻よ薔薇のやうに
1935年/P.C.L./白黒/74分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:中野実/撮影:鈴木博/音楽:伊藤昇/装置:久保一雄
出演:千葉早智子、英百合子、伊藤智子、丸山定夫、藤原釜足、細川ちか子、堀越節子、大川平八郎
◆砂金探しに出たまま家を捨て愛人と暮らす父、逃げられた女流歌人の妻、献身的な愛を与える妾、父を連れ戻すために奔走する娘(千葉)など、微妙な心の揺れを、繊細かつ緻密に表現し、絶賛された成瀬初期の傑作。P.C.L.の看板女優で主演の千葉と、37年に結婚(後に離婚)。
◎キネマ旬報ベストテン1位
噂の娘
1935年/P.C.L./白黒/55分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/撮影:鈴木博/音楽:伊藤昇/美術:山崎醇之輔
出演:千葉早智子、梅園龍子、伊藤智子、御橋公、汐見洋、大川平八郎、藤原釜足
◆没落する東京の老舗酒店を舞台に、対照的な姉妹の姿を通して描く成瀬の隠れた名作。チェーホフの戯曲『桜の園』を原案に、時代に没落していく下町文化の崩壊を描く。升に注がれる酒の音、雨音などの現実音に、視線と光線によるサイレント的な形式美を重ねた野心作。
女人哀愁
1937年/P.C.L.・入江ぷろだくしょん/白黒/74分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/脚本:田中千禾夫/撮影:三浦光雄/音楽:江口夜詩/美術:戸塚正夫
出演:入江たか子、佐伯秀男、北沢彪、堤真佐子、沢蘭子、初瀬浪子、伊藤薫、大川平八郎
◆スター女優・入江たか子主演で成瀬が描く女性賛歌。裕福な家に嫁いだ広子(入江)が、そこでの幻滅から女性の自立に目覚めるまでを描く。嫁ぎ先の家で何かと雑用を言いつけられ忙しく動き回る広子。女性を束縛する「家」の閉塞感と、ラストの開放感の対比!
鶴八鶴次郎
1938年/東宝東京/白黒/89分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:川口松太郎/撮影:伊藤武夫/音楽:飯田信夫/装置:久保一雄
出演:長谷川一夫、山田五十鈴、藤原釜足、大川平八郎、三島雅夫、横山運平、柳谷寛
◆長谷川一夫、山田五十鈴の黄金コンビ第1作。新内語りの人気芸人、鶴八と鶴次郎の絆と葛藤を描いた第1回直木賞受賞作の映画化。個性の強い男と、女の意地の張り合いを滅びゆく伝統芸の中で描いた名品。時間と空間を稠密に織り合わせる成瀬の演出力が素晴らしい傑作!
はたらく一家
1939年/東宝東京/白黒/65分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:徳永直/撮影:鈴木博/音楽:太田忠/装置:松山崇 出演:徳川夢声、本間教子、生方明、伊藤薫、大日方傳、椿澄枝、南青吉、阪東精一郎
◆働けど働けど暮らしが楽にならない一家。職工の長男が進学を希望し、貧しい一家に波紋が広がって…。プロレタリア作家・徳永直の同名小説を映画化。成瀬自身も気にいっていたという一本で、かつて体験した現実に近く、貧困家庭のほろ苦いユーモアを込めて描いた家庭劇。
まごころ
1940年/東宝東京/白黒/70分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:宇井無愁『きつね馬』/撮影:木塚誠一/音楽:早坂文雄/美術:安倍輝明 出演:藤原鶏太(釜足)、柳谷寛、高勢実乗、清川荘司、御橋公、深見泰三、中村是好、山根寿子
◆"日本一の馬の足"を自称する芸熱心な三文役者(藤原)が被り物の馬を壊されて、代わりに本物の馬を芝居の舞台に出され思わぬ好評で…。「後ろ足5年、前足10年」という馬の足芸を否定され、酔っぱらって馬に襲い掛かって。浮草稼業の哀歓を、ユーモアと哀愁を交えた好篇。
旅役者
1940年/東宝東京/白黒/70分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:宇井無愁『きつね馬』/撮影:木塚誠一/音楽:早坂文雄/美術:安倍輝明 出演:藤原鶏太(釜足)、柳谷寛、高勢実乗、清川荘司、御橋公、深見泰三、中村是好、山根寿子
◆"日本一の馬の足"を自称する芸熱心な三文役者(藤原)が被り物の馬を壊されて、代わりに本物の馬を芝居の舞台に出され思わぬ好評で…。「後ろ足5年、前足10年」という馬の足芸を否定され、酔っぱらって馬に襲い掛かって。浮草稼業の哀歓を、ユーモアと哀愁を交えた好篇。
秀子の車掌さん
1941年/南旺映画/白黒/54分/35mm
監督・脚本:成瀬巳喜男/原作:井伏鱒二『おこまさん』/撮影:東健/美術:小池一美/音楽:飯田信夫 出演:高峰秀子、藤原鶏太(釜足)、夏川大二郎、清川玉枝、勝見庸太郎、馬野都留子
◆その後、数々の名作を生み出していく成瀬・高峰初コンビ作品。当時“デコちゃん”と呼ばれて絶大な人気を博していた高峰秀子が、温泉町のさびれたバスを盛り立てようとする車掌のおこまさんを爽やかに名演。戦時下とは思えない牧歌性が横溢した秀作。原作は井伏鱒二。
芝居道
1944年/東宝/白黒/83分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:長谷川幸延/脚本:八住利雄/撮影:小倉金弥/音楽:清瀬保二/美術:中古智 出演:長谷川一夫、山田五十鈴、古川緑波、花井蘭子、進藤英太郎、志村喬、阪東橘之助
◆『鶴八鶴次郎』に続く長谷川・山田の黄金コンビの芸道物で、興行主と彼が育てる新進役者(長谷川)が本物の芸に目覚めるまでを描く。山田は長谷川を愛する女義太夫を演じ、彼の成長を見守る。大阪・角座を再現した美術監督中古智の巨大なセットなど戦争末期を感じさせない大作。
薔薇合戰
1950年/松竹京都・映画芸術協会/白黒/98分/35mm<国立映画アーカイブ所蔵作品>
監督:成瀬巳喜男/原作:丹羽文雄/脚本:西亀元貞/撮影:竹野治夫/美術:松山崇/音楽:鈴木静一 出演:三宅邦子、若山セツ子、桂木洋子、鶴田浩二、安部徹、大坂志郎、永田光男
◆丹羽文雄原作を成瀬が映画化したメロドラマ。三宅、若山、桂木の美しき三姉妹の波瀾万丈の物語。それぞれの結婚とその破局を通して、人間として自立していく三姉妹を描く。どうしようもない男たちはさすが成瀬! 上映される機会の少ない本作を国立映画アーカイブから特別上映!
めし
1951年/東宝/白黒/97分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子/脚本:井手俊郎、田中澄江/監修:川端康成/撮影:玉井正夫/音楽:早坂文雄/美術:中古智 出演:原節子、上原謙、島崎雪子、杉葉子、杉村春子、花井蘭子
◆結婚から5年目、倦怠期の夫婦の心理の綾を巧みに掬い取り、戦後の成瀬のマイルストーンとなった作品。この年急逝した林芙美子の未完小説の映画化で、初めての原節子出演、初めての林芙美子原作ものとなった。大阪・天神ノ森に現地ロケ、大阪の路地裏の繊細な日常描写も素晴らしい傑作。
お国と五平
1952年/東宝/白黒/92分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:谷崎潤一郎/脚本:八住利雄/撮影:山田一夫/音楽:清瀬保二/美術:中古智 出演:木暮実千代、大谷友右衛門、山村聰、田崎潤、三好栄子、藤原釜足
◆谷崎の同名戯曲が原作の、成瀬戦後唯一の時代劇。江戸時代、お国(木暮)は夫をかつて愛した友之丞(山村)に闇討ちに合い殺される。家臣の五平(大谷)と仇討ちの旅に出るが、5年が経ち、二人は道ならぬ仲に…。追われ逃げる山村の、命を乞う未練たっぷりな姿は、さすが成瀬!
おかあさん
1952年/新東宝/白黒/98分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:全国児童綴方集/脚本:水木洋子/撮影:鈴木博/音楽:斎藤一郎/美術:加藤雅俊 出演:田中絹代、香川京子、岡田英次、加東大介、三島雅夫、中北千枝子
◆戦災で焼けたクリーニング店を再興しようと団結する一家。全国の小学生から募集した作文から着想を得て、初めて成瀬作品に参加した水木洋子が脚色。父親を亡くしたり、様々な不幸に遭いながらも、母を中心に健気に生きる姿を描いた家庭劇。最高作との呼び声も高い1本。
稲妻
1952年/大映東京/白黒/87分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:田中澄江/原作:林芙美子/撮影:峰重義/美術:仲美喜雄/音楽:斎藤一郎 出演:高峰秀子、三浦光子、村田知英子、植村謙二郎、香川京子、根上淳、小沢栄、中北千枝子
◆長男三姉妹全て父親の違う一家。もつれた血縁がからみ合った惨めな境遇を抜け出そうとする三女を中心に描く下町人間模様。クライマックスで陽が翳り稲妻が走るまでの「光の演出」の素晴らしさたるや! 成瀬自身「代表作は『浮雲』でなく『稲妻』」と語る傑作のひとつ。
夫婦
1953年/東宝/白黒/87分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:井手俊郎、水木洋子/撮影:中井朝一/美術:松山崇/音楽:斎藤一郎 出演:上原謙、杉葉子、三國連太郎、小林桂樹、藤原釜足、滝花久子、岡田茉莉子、豊島美智子
◆『めし』に続き結婚から6年目の倦怠期の夫婦に焦点をあて、日常に追われる内に通い合わなくなった夫婦間の心情を、転勤で余儀なくされる家探しと予期せぬ妊娠を軸に描く秀作。年末年始の風物も効果的で、寒々しい夫婦の孤独さも際立っている。急病の原節子の代役を杉葉子が好演。
妻
1953年/東宝/白黒/96分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子『茶色の目』/脚本:井手俊郎/撮影:玉井正夫/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:高峰三枝子、上原謙、丹阿弥谷津子、三國連太郎、新珠三千代、高杉早苗
◆『めし』『夫婦』に続く〈夫婦もの三部作〉第三作。ついに結婚十年目、愛も冷め生活に張りを失っていた主婦が夫の不倫を知り…。決定的事件の起きてしまった修復のきかない夫婦と周囲の波紋を緻密な心理劇に仕上げ、普遍的な人間ドラマとなった。上原が三部作を通して、優柔不断な夫を名演!
あにいもうと
1953年/大映/白黒/87分/16mm
監督:成瀬巳喜男/原作:室生犀星/脚本:水木洋子/撮影:峰重義/美術:仲美喜雄/音楽:斎藤一郎 出演:京マチ子、森雅之、久我美子、堀雄二、船越英二、山本礼三郎、浦辺粂子、潮万太郎
◆粗っぽい性格だが妹への愛は人一倍の兄(森)と、子どもを宿して帰ってきた身持ちの悪い妹(京)との深い兄妹愛の世界を描いた作品。室生犀星の名作の映画化。むき出しの感情表現の中に発露する情感。舞台である多摩川べりの描写、情緒をつかんでいく演出はまさに名人芸!
山の音
1954年/東宝/白黒/95分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:川端康成/脚本:水木洋子/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:斎藤一郎 出演:原節子、上原謙、山村聰、長岡輝子、杉葉子、丹阿弥谷津子、中北千枝子
◆中流家庭を舞台に、息子(上原)の浮気に心を痛める舅(山村)と、その嫁(原)の間に芽生えるほのかな感情に生起するエロチシズム。川端文学の映画化で、浮気する夫との忍従の辛さを噛みしめて寂しく生きる嫁を、原節子が好演。川端の自宅に似せて作ったセットで撮影。
晩菊
1954年/東宝/白黒/102分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子/脚本:田中澄江、井手俊郎/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:斎藤一郎 出演:杉村春子、沢村貞子、細川ちか子、望月優子、上原謙、小泉博、有馬稲子
◆かつては芸者として働き今は金貸しをしている中年女(杉村)のもとに、以前燃えるような恋をした男(上原)が訪ねてくる…。老いを意識する年齢になった元芸者たちの様々な日常。それぞれのエピソードがユーモアとほのかな哀愁を漂わせる。芸達者な女優陣を得て冴え渡る成瀬演出。
浮雲
1955年/東宝/白黒/124分/DCP
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子/脚本:水木洋子/撮影:玉井正夫/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、中北千枝子、山形勲、加東大介、千石規子
◆戦時中、仏印で出会った男と女が戦後、出会いと別離を繰返し、くされ縁のままに堕ちていく…。戦中から戦後にかけての混乱期をただ流されていった一人の女への鎮魂歌。高峰・森の名演も素晴らしい日本映画史上に輝く成瀬畢生の傑作。ラストシーンの美しさは映画史の頂点!
◎キネマ旬報ベストテン第1位
驟雨
1956年/東宝/白黒/91分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:岸田国士/脚本:水木洋子/撮影:玉井正夫/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:原節子、佐野周二、香川京子、小林桂樹、根岸明美、長岡輝子、中北千枝子
◆東京郊外の住宅に暮らす結婚4年目の夫婦(原、佐野)のもとに、新婚旅行から戻ったばかりの姪(香川)が訪れてきて…。夫婦の倦怠期を描いた作品だが、郊外のユーモラスな風俗描写や健気なヒロインの設定など、夫婦の機微と人間模様をいきいきと軽妙に綴った愛すべき作品。
流れる
1956年/東宝/白黒/117分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:幸田文/脚本:田中澄江、井手俊郎/撮影:玉井正夫/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:山田五十鈴、田中絹代、高峰秀子、岡田茉莉子、杉村春子、栗島すみ子
◆時代に取り残されていく芸者置屋の女将とその周囲の女たちを豪華キャストで描いた不朽の名作。没落していく置屋の女たちを女中の目から見た幸田文原作を映画化。内に秘めたセリフ、ショットの数々、カット割りとも日本映画の一つの頂点。栗島すみ子の戦後唯一の映画出演作。
あらくれ
1957年/東宝/白黒/121分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:徳田秋聲/脚本:水木洋子/撮影:玉井正夫/美術:河東安英/音楽:斎藤一郎 出演:高峰秀子、上原謙、森雅之、加東大介、仲代達矢、東野英治郎、中北千枝子
◆大正時代、縁談を嫌い家を飛び出して自分の運命を自分で切り開くヒロインを高峰秀子主演で映画化した大河ドラマ。多情と向こう気の強さで争いごとの絶えない女、しかし気性は激しくとも男につくす女・お島を高峰が熱演。女性映画を手がけた成瀬作品でも最もエネルギッシュなヒロイン!
鰯雲
1958年/東宝/カラー/132分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:和田傳/脚本:橋本忍/撮影:玉井正夫/音楽:斎藤一郎/美術:中古智、團真 出演:淡島千景、新珠三千代、司葉子、中村鴈治郎、杉村春子、木村功、飯田蝶子
◆東京近郊の農家を舞台に、田園でのロケ撮影という成瀬初のカラー・ワイド作品。和田傳原作を橋本の脚本をえて、戦後の農地改革の波が押し寄せる農村社会、新旧世代の対立など、そこに生きる人々を詩情豊かに描く成瀬の異色作。淡島が女手ひとつで息子を育て上げた美しい戦争未亡人を好演。
コタンの口笛
1959/東宝/カラー/129分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:石森延男/脚本:橋本忍/撮影:玉井正夫/音楽:伊福部昭/美術:中古智 出演:森雅之、久保賢、幸田良子、宝田明、水野久美、志村喬、三好栄子
◆北海道・千歳川のほとりに住む先住民族アイヌの姉弟を主人公に、まだ根強かったアイヌ民族差別を描く児童文学の映画化。北海道でのロケが行われ、自然への畏敬に根差したアイヌの文化を描くとともに、健気で逞しい子供の姿に胸うたれる成瀬の異色作。父を演じる森の名演が光る。
女が階段を上る時
1960年/東宝/白黒/111分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:菊島隆三/撮影:玉井正夫/録音:藤好昌生/美術:中古智/音楽:黛敏郎 出演:高峰秀子、森雅之、中村鴈治郎、仲代達矢、加東大介、小沢栄太郎、団令子
◆銀座のバーの雇われマダムを主人公に、60年代を迎え変貌する社会風俗の中、打算渦巻く夜の世界に生きる女の矜恃を描く。別格の美しさを見せる高峰がマダムを名演、衣装も担当し、人間のエゴや駆け引き、信頼と裏切りなど、女の哀しみが浮き彫りになっていく成瀬円熟期の傑作。
娘・妻・母
1960年/東宝/カラー/124分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:井手俊郎、松山善三/撮影:安本淳/美術:中古智/音楽:斎藤一郎 出演:三益愛子、原節子、森雅之、高峰秀子、宝田明、団令子、草笛光子、小泉博、淡路恵子
◆金銭面などから亀裂が生じていく東京山の手の中流家庭の母と嫁と娘たちに、東宝の第一級の女優たちが扮するオールスター映画。親の老後、遺産相続の問題などを交え、名優たちが競演する大ヒット作。ラストの展開に吃驚! 成瀬映画で初めてで最後の原節子、高峰秀子の共演作品。
女の座
1962年/東宝/白黒/113分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:井手俊郎、松山善三/撮影:安本淳/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:高峰秀子、笠智衆、杉村春子、司葉子、小林桂樹、三橋達也、星由里子、淡路恵子、草笛光子
◆未亡人でありながら大家族のまとめ役を担う芳子を中心とした大家族劇。井手=松山コンビの脚本で『娘・妻・母』を上回る豪華な女優陣が見物。家族の絆とか言いながらエゴまるだしの日本的家族の闇を辛辣に描いた傑作で、笠智衆も父親役で出演し、あたかも成瀬版『東京物語』。
放浪記
1962年/宝塚映画/白黒/124分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子/脚本:井手俊郎、田中澄江/撮影:安本淳/音楽:古関裕而/美術:中古智 出演:高峰秀子、田中絹代、宝田明、小林桂樹、草笛光子、加東大介、仲谷昇
◆林芙美子の原作で高峰とともに『浮雲』など数々の名作を創り出した成瀬が、彼女の自伝を元に描き出した人間哀歌。才能豊かな女の波乱万丈な一代記を高峰は独自の観点で熱演し、それまでになかった芯の強い芙美子像を創造した。成瀬、高峰ともに最も好きな作品だという。
女の歴史
1963年/東宝/白黒/126分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:笠原良三/撮影:安本淳/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:高峰秀子、賀原夏子、星由里子、宝田明、山崎努、仲代達矢、淡路恵子、草笛光子、加東大介、児玉清
◆モーパッサンの『女の一生』から着想を得た笠原良三の脚本を映画化。日中戦争以来の世相の変化を背景に、夫を戦争で亡くし、一人息子を苦労して女手ひとつで育てあげた女の一代記。戦争を経て激動の昭和の時代を生きた女(高峰)の半生を回想形式で描く。高峰の演技とともに、中古智の美術も秀逸。
乱れる
1964年/東宝/白黒/98分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:松山善三/撮影:安本淳/音楽:斎藤一郎/美術:中古智 出演:高峰秀子、加山雄三、草笛光子、白川由美、浜美枝、三益愛子、坂部紀子、柳谷寛、中北千枝子
◆戦死した夫に代わり酒屋を営む未亡人(高峰)に、義弟(加山)が恋心を抱き…。終盤の道行に至って至高の輝きを放ち出すメロドラマの傑作。実家へと帰る高峰を追って、急行列車に乗り込んだ加山が少しづつ距離を縮めるシーンなど、見所満載。その心理描写の巧みさは成瀬の真骨頂!
女の中にいる他人
1966年/東宝/白黒/106分/35mm
監督:成瀬巳喜男/原作:エドワード・アタイヤ/脚本:井手俊郎/撮影:福沢康道/音楽:林光/美術:中古智 出演:小林桂樹、新珠三千代、三橋達也、若林映子、草笛光子、長岡輝子、加東大介
◆愛人を誤って殺してしまい良心の呵責に苦しむ夫(小林)と、あくまで家庭を守ろうとする妻(新珠)。 翻訳ミステリーを原作に、夫婦間の心理の葛藤を描いた名匠・成瀬が手掛けた心理サスペンス。レリーフと呼ばれるネガフィルムのい処理で、殺害時の異常心理を表現している。
ひき逃げ
1966年/東宝/白黒/94分/35mm
監督:成瀨巳喜男/脚本:松山善三/撮影:西垣六郎/音楽:佐藤勝/美術:中古智 出演:高峰秀子、司葉子、小沢栄太郎、小川安三、黒沢年男、加東大介、中山仁、賀原夏子、浦辺粂子
◆子供をひき逃げされた国子(高峰)は、加害者(司)宅に女中として入り込み、復讐を企てる異色サスペンス。交通事故が年々増加していた当時の社会状況を反映しながら、成瀬は加害者・被害者の二人の女の心理の推移を主題に、人間の狂気と日常の脆弱さをシュールで意外性のある展開で描く。
乱れ雲
1967年/東宝/カラー/108分/35mm
監督:成瀬巳喜男/脚本:山田信夫/撮影:逢沢譲/音楽:武満徹/美術:中古智 出演:司葉子、加山雄三、草笛光子、浜美枝、加東大介、森光子、土屋嘉男、浦辺粂子、藤木悠、中村伸郎
◆交通事故で夫を失った女(司)と加害者の男(加山)。許されぬ愛におののく男女を十和田湖の風景の中で哀切に描いた遺作。『乱れる』で好演した加山と司が共演。十和田湖の瑞々しい光景と、武満の叙情的な旋律が、2人の許される愛を情感豊かにうたいあげるメロドラマの傑作。
イベント
4/26(土)13:40『秀子の車掌さん』上映後
ゲスト:木下千花さん(映画研究、京都大学教授)
4/27(日)15:05『二人妻 妻よ薔薇のやうに』上映後
ゲスト:筒井武文さん(映画監督)
5/3(土)14:30『稲妻』上映後
ゲスト:渋谷哲也さん(ドイツ映画研究)
6/8(日)13:45『乱れる』上映後
ゲスト:斎藤明美さん(文筆家)
ピアノ生演奏付き上映
5/3(土)13:00『夜ごとの夢』
5/8(木)19:10『夜ごとの夢』
演奏:鳥飼りょうさん(楽士)
入場料金
当日券
一般1600円、シニア1300円、会員・学生1200円、ハンディキャップ・高校生以下1000円
回数券 準備中
一般5回券6500円、シニア5回券6000円、会員・学生5回券5500円
※5回券は複数人数での使用不可 ※会員5回券は本人のみ(同伴者1名まで1本1200円)
※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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