台湾巨匠傑作選2018開催によせて
台湾巨匠傑作選2018、上映28作品のうち『スーパーシチズン 超級大国民』『藍色夏恋』『ナイルの娘』3本はデジタルリマスター版による初公開の作品だ。
“デジタルはフィルムの解像度を上回ることができるか?”
1952年磁気テープによる映像記録・ビデオテープが開発されて、フィルムに替わる上映素材となると期待された。フィルムは解像度は高いが大きく重い。安価で操作が簡単な上映素材が切望されていた。しかし、ビデオテープの解像度は、どうしてもフィルムに追いつかない。その以前から映像はデジタル化の道を模索していた。「デジタルとは0101の2進法の配列により信号を情報化し運用する総体的事柄をいう」。なんのこっちゃだが、今や、パソコンにTVに「デジタル映像」は日常的に飛び交っている。映像素材としてのデジタルの問題は解像度であった。DVDは、フィルムの解像度にはほど遠く、映画館の上映素材として使えるものではなかった。しかし、デジタルの進化は著しく、DVDの普及から数年でMD、4K、8Kと急速な勢いでフィルムの解像度を凌駕した。補正やコピーが簡単そしてコンパクト。もう後戻りはできない。
“台湾巨匠傑作選”の開催も、このデジタル化の波と無縁ではない。台湾の中央電影が『童年往事』『坊やの人形』『恋恋風塵』『冬冬の夏休み』『ウェディングバンケット』『推手』『恋人たちの食卓』『青春神話』『愛情萬歳』『河』等台湾ニューシネマ作品をデジタルリマスター化して世に出したことがきっかけとなった。昨年リバイバルあるいは初公開されたエドワード・ヤン監督『牯嶺街少年殺人事件』『台北ストーリー』もデジタルリマスター版だ。ホウ・シャオシェン監督もリスペクトする巨匠キン・フー監督『侠女』『残酷ドラゴン/血斗竜門の宿』もデジタルリマスター版で復活した。
1995年製作『スーパーシチズン 超級大国民』は、その年東京国際映画祭コンペ部門で上映されて、世界各地の映画祭に出品および招待されて評判になった。けれども台湾戒厳令下、白色テロの時代そして戒厳令が解かれた年に出獄した政治犯が主人公のこの映画は、『坊やの人形』の第3話「りんごの味」でデビューした台湾ニューシネマの代表的監督ワン・レン作品だったが、日本で一般公開されることはなかった。22年後2017年、デジタルリマスター版『スーパーシチズン 超級大国民』が東京国際映画祭で再上映された。『牯嶺街少年殺人事件』『台北ストーリー』上映と機を一にしての再上映は、ここ数年来起こっている台湾ニューシネマの見直し、日台友好ムードのあらわれだろう。
そして、近年ヒットした台湾映画も台湾ニューシネマと無縁ではない。『海角七号/君想う、国境の南』『セデック・バレ』のウェイ・ダーション監督の映画界でのスタートは、エドワード・ヤン映画の助監督であり、今年『軍中楽園』公開が控えている『モンガに散る』の監督ニウ・チェンザーはホウ・シャオシェン監督『風櫃の少年』の主役を演じた少年である。『台湾新電影時代』でのインタビューでも分かる通り、台湾ニューシネマの影響を受け刺激を受けた映画作家は世界にも数多くみられる。
着実に、台湾ニューシネマの波は、寄せては返しながら受け継がれ、今回の「台湾巨匠傑作選2018」の開催にも繋がっている。