映画に愛された大女優は、女性監督のパイオニアだった!
日本映画史に名を残すスター俳優・田中絹代(1909~77)。今、監督としても内外で高い評価を受けている。昨年夏のカンヌ国際映画祭で1955年の田中絹代監督作品『月は上りぬ』のデジタル復元版が紹介され、続けて10月にはフランス・リヨンのリュミエール映画祭で特集上映、11月に東京国際映画祭で「女性監督のパイオニア 田中絹代」特集開催、さらに今年になって4K修復版6本がフランスでなんと22館、パリだけでも4館公開され、またニューヨーク、イタリア・ボローニャでも特集が組まれるなど、世界で注目が一気に高まり再評価が進む田中絹代監督作品。日本を代表する名優は、日本映画における女性監督の先駆けであり、その作品が60年を経て世界で新しく発見され、世界の人々を魅きつけている――。
世界で女性が映画を撮れなかった時代、1953年『恋文』で戦後日本映画初となる女性監督となり、最後の監督作品である1962年の『お吟さま』までの10年間に6作品を監督。今回最後の作品を除く5本と、名優として多彩な代表作3本、あわせて8作品を一挙上映する。
「女優として、監督として」――私たちが知らない田中絹代がここにいる!
田中絹代 監督作品
恋文
1953年/新東宝/97分/白黒/デジタル
◎監督:田中絹代◎原作:丹羽文雄◎脚本:木下惠介◎撮影:鈴木博◎美術:進藤誠吾◎音楽:斎藤一
◎出演:森雅之、久我美子、宇野重吉、香川京子、道三重三、関千恵子、中北千枝子、夏川静江、花井蘭子
◆脚本の木下惠介をはじめ、成瀬巳喜男、小津安二郎ら田中絹代の才能を高く評価する巨匠たちが全面的に協力した第一回監督作品。復員後、様変わりした社会に戸惑う元軍人(森)。恋文の代筆業をしながらかつての恋人を想い続けるが、そこに街娼に身を落とした彼女(久我)が現れ…。戦後の女たちの困難な歩みに寄せる視線が鮮やかな名編。
月は上りぬ
1955年/日活/102分/白黒/35ミリ/デジタル
◎監督:田中絹代◎脚本:小津安二郎、斎藤良輔◎撮影:峰重義◎美術:木村威夫◎音楽:斎藤高順
◎出演:笠智衆、佐野周二、山根寿子、杉葉子、北原三枝、安井昌二、小田切みき、汐見洋
◆小津安二郎、斎藤良輔の共同脚本を監督した第2作。舞台は晩秋の古都・奈良。戦争中に東京から疎開してきた父親(笠)と三姉妹(山根、杉、北原)。彼女たちの恋模様と心の機微をやさしく丁寧にすくい取った細やかな演出で描く。昨年のカンヌ映画祭で絶賛され、世界的な田中絹代監督作品の再評価につながった名編。
乳房よ永遠なれ
1955年/日活/110分/白黒/デジタル
◎監督:田中絹代◎原作:若月彰、中城ふみ子◎脚本:田中澄江◎撮影:藤岡桑信◎美術:中村公彦◎音楽:齋藤高順
◎出演:月丘夢路、葉山良二、森雅之、杉葉子、大坂志郎、安部徹、木室郁子、川崎弘子、坪内美詠子、織本順吉、飯田蝶子
◆31歳で乳がんに倒れた薄幸の歌人・中城ふみ子の生涯を監督した第3作。母であり妻であるふみ子が、病魔に侵されながらも「女」として生きようとした姿から、「女が女を描く」ことにこだわり、脚色に田中澄江、ヒロイン役に月丘夢路を抜擢し、女として自我に目覚めていく女性賛歌として描く。田中の手腕が光る名編。
流転の王妃
1960年/大映/102分/カラー/デジタル
◎監督:田中絹代◎原作:愛新覚羅浩◎脚本:和田夏十◎撮影:渡辺公夫◎美術:間野重雄◎音楽:木下忠司
◎出演:京マチ子、船越英二、竜様明、金田一敦子、沢村貞子、三宅邦子、笠智衆、南部彰三、東山千栄子、小沢栄太郎、水戸光子
◆満州国皇帝溥儀の弟、溥傑氏の妃として波乱の半生を送ってきた愛新覚羅浩の自伝を映画化した監督第4作。国策により政略結婚させられた竜子(のちの愛新覚羅浩/京マチ子)。満洲の地で王妃としての華麗なる生活も昭和20年8月のソ連の対日戦開始とともに一変。苦難の大陸流浪を描いた文芸巨編。圧巻の演出力!
女ばかりの夜
1961年/東宝/92分/白黒/35ミリ/デジタル
◎監督:田中絹代◎原作:梁雅子◎脚本:田中澄江◎撮影:中井朝一◎美術:小島基司◎音楽:林光
◎出演:原知佐子、北あけみ、浪花千栄子、富永美沙子、千石規子、春川ますみ、淡島千景、沢村貞子、桂小金治、中北千枝子、香川京子
◆溝口健二『夜の女たち』(1948年)で街娼を演じた田中絹代が、売春婦たちの更生と社会的自立を描いた第5作。一貫して社会の中で虐げられてきた女性たちを描く田中の視点は熱い。昭和33年、売春防止法が施行され検挙された売春婦たち。だが彼女たちへ社会は冷たく、想像できない困難が待ち受けていた…。浪花千栄子の怪演も必見!
田中絹代 出演作品
流れる
1956年/東宝/116分/白黒/35ミリ
◎監督:成瀬巳喜男◎原作:幸田文◎脚本:田中澄江、井手俊郎◎撮影:玉井正夫◎美術:中古智◎照明:石井長四郎◎音楽:齋藤一郎
◎出演:田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子、岡田茉莉子、栗島すみ子、中北千枝子、加東大介、宮口精二
◆幸田文の同名小説を、名匠・成瀬巳喜男が映画化。落ちぶれかかった柳橋の置屋に暮らす芸者たちの哀歓が、しみじみと綴られた成瀬の表作。豪華な女優陣の芸と個性がぶつかり合い絡み合った女の世界。絹代は、素人ながら花柳界に女中として入った梨花を演じ、地味だが聡明で人情味のある役柄を名演。
太夫さんより 女体は哀しく
1957年/宝塚映画/113分/カラー/35ミリ
◎監督:稲垣浩◎原作:北条秀司◎脚本:八住利雄◎撮影:岡崎宏三◎美術:伊藤嘉明、植田寛◎音楽:深井史郎
◎出演:田中絹代、乙羽信子、小沢栄太郎、淡路恵子、扇千景、東郷晴子、清川はやみ、環三千世、岡田貴美子、浪花千栄子
◆戦後の京都・島原遊廓を舞台に女の世界の哀歓を描いた北条秀司の原作『太夫さん』の映画化。300年もの老舗の遊郭・宝永楼の人情味豊かな女主人おえい(田中絹代)の視点から、太夫や仲居、周囲の男たちとの人間関係が描かれる文芸映画の名作。豪華女優陣により明日知れぬ運命に、儚い夢を咲かせた女性たちの群像劇!
おれの行く道
1975年/松竹/86分/カラー/35ミリ
◎監督・脚本:山根成之◎脚本:光英司◎撮影:竹村博◎美術:熊谷正雄◎音楽:田辺信一 ◎出演:田中絹代、西城秀樹、河原崎長一郎、岩本多代、西野正一、片桐夕子、小松政夫、池上季実子、北沢彪、北浦昭義、弓恵子、夏純子
◆1977年に死去した田中絹代の、主演としては最後の出演作。共演は、今年、デビュー50周年を迎えた故・西城秀樹。莫大な財産を持っている祖母 (田中)と、孫の現代青年(西城)との心のふれあいを、プログラム・ピクチャーの名手・山根成之が監督。ひとり生きていく人生哀歌となった田中らしい人情喜劇。
特別上映
お吟さま
1962年/[製作]にんじんくらぶ/[配給]松竹/102分/DCP/シネスコ
◎監督:田中絹代◎原作:今束光◎脚色:成澤昌茂◎撮影:宮島義勇◎美術:大角純一◎音楽:林光◎録音:福安賢洋◎照明:蒲原正次郎◎編集:相良久
◎出演:有馬稲子、仲代達矢、中村鴈治郎、高峰三枝子、冨士眞奈美、南原宏治、笠智衆、伊藤久哉、岸惠子、滝沢修、月丘夢路、田村正和、千秋実
映画に愛された大女優 田中絹代、最後の監督作品
◆田中絹代監督最後となる6作目は、最初にして最後の時代劇作品となった。茶道の名匠千利休の養女お吟の悲恋を描く今東光原作の同名小説の映画化。キリシタン大名の高山右近(仲代達矢)と吟(有馬稲子)の悲恋を描いた作品。右近に思いを寄せつつも堺の豪商と結婚させられたうえ、秀吉の側女になることを強制されるお吟の視点から、彼女の数奇な半生を描く。利休役の中村鴈治郎、高峰三枝子が共演し、岸恵子が特別出演しているほか、お吟の弟役に田村正和など、豪華な顔ぶれがそろっている。脚本の成沢昌茂、溝口組のスタッフや、撮影は名キャメラマン宮島義勇などのベテランが参加。右近への愛を貫き通し、権力に抵抗する女性の生き方を、華麗な桃山文化をバックに田中絹代の女流監督らしい耽美的でキメの細かい演出により、美しく映し出している。
スケジュール
6/4(土)〜10(金)10:00
◎【映画監督・女優 田中絹代 女優として、監督として】3回券もご使用いただけます。
トークショー
5/14(土)11:50『月は上りぬ』上映後
ゲスト:津田なおみさん (『映画監督 田中絹代』著書、映画評論家、フリーアナウンサー)
入場料金
当日券
一般1,500円/シニア1,200円/会員・学生1,100円/高校生以下1,000円
一般3回券3,900円/シニア3回券3,300円/学生・会員3回券3,000円
※ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券は受付窓口で指定席をお選びの上ご購入ください。開始時間の10〜15分前からご入場いただけます。
回数券なども受付にて座席指定券とお引き換え下さい。1週間前の午前10時よりオンライン&窓口でご購入いただけます(ただし、回数券は窓口のみ。)
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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スケジュール
『お吟さま』6/4(土)〜10(金)10:00
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