ジョージア映画祭2024-25
自由、夢、人間━━映画の王国ジョージアから
ソ連邦時代(1921-1991)に製作されたジョージア映画の全貌に迫る。政治体制による厳しい抑圧下、ユーモアとアイロニーを交、人間と社会の真実を捉えた独創的な作品の数々。2024年は名匠エルダル・シェンゲラヤ監督、ラナ・ゴゴベリゼ監督の作品を中心に、ジョージア映画史に燦然と輝く名作を一挙上映する。
ジョージア映画祭2024-25━━コーカサスからの風
ジョージア(サカルトヴェロ)映画は、この国の歴史ある民族文化と同じく、独自の存在感を世界に示してきた。それはポリフォニー(多声音楽)のように多彩な豊かさを内包し、古代から伝わるワインのように芳醇である。そしてスプラ(ジョージア式宴会)のように民族の魂を謳い、高揚させ、度重なる苦難のなかで人々の心を支えてきた。
「過去なくして未来はない」(ジョージア・フィルムの標語)。「ジョージア映画祭2024」では、2022年に引き続きソ連邦時代のジョージア映画を特集する。政治体制の抑圧に屈することなく、人間と時代を描いたジョージア映画黄金期の作品が、戦争と暴力が世界を覆う今日、一層の輝きを帯びて蘇る。
ジョージア映画は奇妙な現象だ。特別であり、哲学的に軽妙で、洗練されていて、同時に子どものように純粋で無垢である。ここには私を不覚にも泣かせるすべてがある。
(フェデリコ・フェリーニ監督)
DCP上映 ジョージア語版・日本語字幕。R印はロシア語版・日本語字幕。★印は日本語字幕+英語字幕入り
ラナ・ゴゴベリゼ監督特集
「金の糸」(2019)、「インタビュアー」(1978)で日本でも知られるラナ・ゴゴベリゼ監督は現在95歳。彼女は戦後のジョージア映画の発展を担ってきた一人であり、今も旺盛に製作を続けている。その長き挑戦の軌跡を回顧する。
ひとつ空の下 - 3つのエピソード
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1961年/白黒/80分
◆ラナの長篇第1作であり、3話から成るオムニバス。1921年、赤軍侵攻下で避難する貴婦人の愛。1941年、大祖国戦争勃発下の娘の日々。1961年、「雪どけ」期の女性建築士の想い。歴史の節目となった年を背景に各時代の女性の運命を鮮烈に描く。
インタビュアー
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1978年/カラー/95分
◆ラナの作品はいずれも高い知性と繊細な感性を感じさせ、女性と時代、女性と社会を鋭く捉える。本作はジョージア初のフェミニズム映画といわれ、女性新聞記者の家庭における葛藤、そして彼女の女性たちへの取材の日々をとおして現代を浮き彫りにする。
昼は夜より長い
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1983年/カラー/105分 ★
◆20世紀初頭の東ジョージア、秘境トゥシェティの山間の村が主な舞台。旅芸人が狂言回しとなり、主人公エヴァの波乱の生涯が、老いた彼女の回想でジョージアの近代史とともに語られる一大絵巻。1983年カンヌ国際映画祭正式出品作品。ジョージア国家賞。
渦巻
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1986年/カラー/98分 ★
◆「転回」という邦題で1986年東京国際映画祭最優秀監督賞を受賞。80年代のトビリシで異なる人生を歩んでいた何人もの運命が交錯し、緊密に絡み合ってジョージアに生きる人々の心模様、歓びや哀しみを描く。ゴゴベリゼ監督の力量が遺憾なく発揮された名作。
エルダル・シェンゲラヤ監督特集
ジョージア映画人同盟の代表を長く務めたE・シェンゲラヤ。彼の寓意豊かな作品は国民から圧倒的な支持を受けてきた。現在91歳。極上のユーモアとペーソス、人間への温かな眼差しと権力への批判を込めた傑作の数々を紹介。
奇妙な展覧会
エルダル・シェンゲラヤ監督/1968年/白黒/93分
◆エルダル独特のユーモアとペーソスが開花した作。西ジョージアの古都クタイシで、一人の彫刻家が師から受け継いだ大理石を前に傑作を夢見るが、激動する時代に翻弄されてゆく。自らの人生を受容してゆく姿を描いた人間愛に溢れる国民的映画。
奇人たち
エルダル・シェンゲラヤ監督/1973年/カラー/79分
◆ジョージア国民にこよなく愛される作品。無一文の青年が、憲兵隊が横暴を振るう奇妙な町で、牢獄に幽閉された老発明家とともに空飛ぶ機械を完成させようとする──自由への願いと全体主義への痛烈なアイロニーが込められた奇想天外な冒険物語。
サマニシヴィリ家の継母
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1983年/カラー/105分 ★
◆19世紀末の緑豊かな田園が舞台。貴族だが今は貧しい老父が突然再婚を決意する。家族のために身を粉にして働く息子には父の遺産が減ることは大問題だった。しかし彼は父の相手を探すために旅に出る。心に染み入る悲喜劇。全ソ連映画祭グランプリ。
青い山 - 本当らしくない本当の話
エルダル・シェンゲラヤ監督/1983年/カラー/95分 ★
◆カンヌ国際映画祭で歴史的名作ベスト20に選ばれた。若い作家が自作の小説を出版するために出版所を訪れる。そこの異星の住人のような職員の奇妙な姿をとおし、役人社会の現実を笑いと風刺で描いたエルダルの代表作。ソ連邦崩壊を予見した作品。
ギオルギ・シェンゲラヤ監督と「ピロスマニ」
「ピロスマニ」は奇跡の映画である。1978年における日本公開は、観客の心に画家ピロスマニとジョージアの存在を強く印象づけた。ジョージアの過去と現在、そして未来が込められたジョージアに関心のある人には必見の作。
ピロスマニ
ギオルギ・シェンゲラヤ監督/1969年/カラー/86分
◆ピロスマニ(1862?-1918)は日々の糧とひきかえに絵を描き続けた。シェンゲラヤ監督は画家の人生と魂を清冽に描き、その姿にジョージアの人と文化、歴史、風土への思いを重ねた。そして映画「ピロスマニ」はイコンのように崇高な輝きを帯びてゆく。
[併映]ピロスマニのアラベスク
セルゲイ・パラジャーノフ監督/1985年/カラー/22分/R
◆パラジャーノフ監督はトビリシ生まれのアルメニア人。その傑出した才能のために投獄され、長く沈黙を強いられたが、ジョージア映画人の協力で復活を果たす。画家ピロスマニへの敬愛の思いを自らの汎コーカサス的ともいえる目眩く美意識で描く。
アラヴェルディの祭
ギオルギ・シェンゲラヤ監督/1962年/白黒/42分 ★
◆タルコフスキー監督が「この作品によって映画の新しい時代が始まった」と評したという。カヘティ地方の大聖堂で行われる由緒ある祭で一人の男が起こした行動をとおし、ジョージアの民族的伝統の意味を問う鮮烈な映像詩。(原作は未知谷刊)
[併映]ムラヴァルジャミエル 追悼三部作
エルダル・シェンゲラヤ監督/2022年/カラー・白黒/60分
◆エルダル・シェンゲラヤ監督が亡き盟友に捧げる短篇三部作。「井戸」はミヘイル・コバヒゼ監督に、「歌」は合唱アンサンブル「ルスタヴィ」のアンゾル・エルコマイシヴィリ氏に、「小鳥」は弟ギオルギ・シェンゲラヤ監督に捧げられている。
よみがえる歴史的名作
ジョージア人の魂の礎である叙事詩『豹皮の騎士』の唯一の映画化作品、また日本では未だに知られざる名匠レフヴィアシヴィリとエサゼ、彼らに続く世代となるバブルアニとジョルジャゼ、各監督の個性溢れる作品を上映する。
19世紀ジョージアの記録
アレクサンドレ・レフヴィアシヴィリ監督/1978年/白黒/67分
◆深い森を舞台に謎めいた陰謀が描かれる。モノクロームの夢幻的ともいえる詩的で象徴的な映像、迷宮のような世界に政治体制への思いが込められた伝説的作品。権力による暴力が超現実的な虚構空間で寓意的に表現され、時代を超えた内容である。
ひとめ惚れ
レゾ・エサゼ監督/1975年/カラー/88分/R
◆熱烈なサッカーファンのアゼルバイジャン人の少年が2歳年上のベラルーシ人の娘に恋をする。文化や年齢の違いが人々を巻き込む大騒動へと発展する。台詞が飛び交う群像劇を得意とするエサゼ監督(「ナイロンのクリスマスツリー」)の真骨頂の世界。
ロビンソナーダ 私の英国人の祖父
ナナ・ジョルジャゼ監督/1986年/カラー/70分
◆1987年カンヌ国際映画祭最優秀新人監督賞受賞作。時代は赤軍に侵攻される1921年頃。ジョージアの山村でイギリス人電信技士が村の娘と恋に落ちる。時代が揺れ動く中で、彼は村人たちから追い出されるが、電柱の周囲は英国領だと主張して居座る‥。
母と娘 - ヌツァとラナ
ジョージアで最初の女性監督ヌツァ・ゴゴベリゼはラナ・ゴゴベリゼ監督の母である。ヌツァは1930年代、スターリンによる粛正のために流刑された。ヌツァとラナ、二代にわたる映画への取り組みと彼女たちの時代を捉える。
母と娘 - 完全な夜はない
ラナ・ゴゴベリゼ監督/2023年/カラー・白黒/89分
◆ラナ・ゴゴベリゼ監督が95歳にして、ソヴィエト体制下における母ヌツァとの日々を語った作品。ヌツァはスターリン時代に家族を粛清され、自らも10年間流刑された。厳しい時代を生きた母へのオマージュ。今年のベルリン国際映画祭に正式出品された。
ウジュムリ
ヌツァ・ゴゴベリゼ監督/1934年/白黒/56分/サイレント・サウンド版
◆ソ連邦初の女性監督による長篇劇映画。完成後、ヌツァは粛清され、作品も押収されて近年まで存在すら確認できなかった。西ジョージアの湿地帯で中央政府の啓蒙政策、水路建設の人々と土着の住民の軋轢を描く。ギア・カンチェリの音楽が入った新版。
[併映]ブバ
ヌツァ・ゴゴベリゼ監督/1930年/白黒/39分/サイレント・サウンド版 ★
◆コーカサスのラチャ地方の大自然のなかで、村人の厳しい労働と四季折々の暮らしを描いたドキュメンタリー。幼子の描写や村人たちの群舞に、斬新なモンタージュを用い、彼女の傑出した才能を感じさせる。「ウジュムリ」と同じく近年発見された。
ペチョラ川のワルツ
ラナ・ゴゴベリゼ監督/1992年/カラー・白黒/106分
◆1937年の大粛清という苛酷な時代を真正面から描いた自伝的作品。父は人民の敵として処刑され、母は北の大地に流刑され、雪原での厳しい日々を強いられる。娘アナは一人残され‥。アブラゼ監督「懺悔」に続く、スターリン時代の暗黒を描いた作品。
金の糸
ラナ・ゴゴベリゼ監督/2019年/カラー・白黒/89分/ムヴィオラ提供
◆作家エレネは娘夫婦と暮らし、79歳の誕生日を迎えた。そこへ娘の姑のミランダが引っ越してくる。彼女はソ連時代、政府高官だった。またかつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話があり、3人の記憶が重ねられ、過去の困難な時代が浮き彫りにされる。
[関連上映] 蝶の渡り
ナナ・ジョルジャゼ監督/2023年/カラー/89分
◆1991年、ソ連からの独立の夢が近づき、若者たちは未来への希望を胸に新しい年を迎える。ジョージア独立後、ソ連邦は崩壊するが、その喜びは新たな戦争によって失われてしまう。27年後、画家コスタは祖父母の代からの家の半地下に暮らし、そこには芸術仲間たちがいつも集まっていた。生き抜くために他国へ「渡り」を行うジョージア人の姿を蝶に託しつつ、ユーモアと希望に満ちたまなざしで描く。ジョージアを代表する監督であり『金の糸』主演のナナ・ジョルジャゼが、ジョージア近代史と芸術への深い思いを込めて撮りあげた集大成的作品。
イベント
2/1(土)11:20『インタビュアー』上映後オンライントークショー
ゲスト:はらだ たけひでさん(ジョージア映画祭主宰・絵本作家)
入場料金
当日券
一般1700円、シニア1300円、会員・学生1200円、ハンディキャップ・高校生以下1000円
『蝶の渡り』のみ一般1900円、シニア1300円、会員・学生1200円、ハンディキャップ・高校生以下1000円
回数券
一般3回券4500円、シニア3回券3600円、会員・学生3回券3300円
※3回券は『蝶の渡り』にはご使用いただけません。
※3回券は複数人数での使用不可 ※会員3回券は本人のみ(同伴者1名まで1本1200円)
※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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