黒澤明、木下惠介、市川崑とともに“四騎の会”を結成、日本映画を牽引し、カンヌ国際映画祭ではチャップリン、オーソン・ウェルズらと並び“世界十大監督”の一人として称えられた映画監督・小林正樹。生誕101年を記念して、『切腹』『怪談』『人間の條件』といった映画史に残る代表作を含む作品群を一挙上映!
人間の條件 第一部 純愛篇 第二部 激怒篇
原作:五味川純平/脚色:松山善三、小林正樹/撮影:宮島義勇/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:仲代達矢、新珠三千代、淡島千景、有馬稲子、佐田啓二、山村聰、石濱朗
1959/モノクロ/206分/シネスコサイズ/にんじんくらぶ=歌舞伎座映画 © 1959 松竹株式会社
◆「青春を戦争の中で送り、自分の意思に反して戦争に協力する形でしか、あの時代を生き残ることができなかった不幸な経験を、梶という人間像の中でもう一度確かめてみたい」と、戦中派の小林が並々ならぬ意欲で五味川純平の原作を壮大なスケールで映画化した第1弾。理想をつらぬく梶が、戦争という過酷な現実に対峙していく。
人間の條件 第三部 望郷篇 第四部 戦雲篇
原作:五味川純平/脚色:松山善三、小林正樹/撮影:宮島義勇/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:仲代達矢、新珠三千代、桂小金治、多々良純、佐田啓二、川津祐介
1959/モノクロ/178分/シネスコサイズ/人間プロダクション
◆労務管理の職を解かれ、関東軍に配属された梶を待っていたのは、厳しい訓練と上官による体罰だった。その後に配属された隊ではソ連軍と衝突し壊滅状態となり、梶は生き残った仲間を探して荒野をさまよい始める…。前作の大ヒットを受けての大河シリーズ第2弾。製作の“人間プロ”は、にんじんくらぶと松竹の合同ユニット。
人間の條件 完結篇 第五部 死の脱出 第六部 曠野の彷徨
原作:五味川純平/脚色:松山善三、小林正樹、稲垣公一/撮影:宮島義勇/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:仲代達矢、新珠三千代、中村玉緒、高峰秀子、川津祐介、笠智衆
1961/モノクロ/190分/シネスコサイズ/にんじんくらぶ
◆生き延びた梶らは避難民と合流し、戦争が終わったのかどうかもわからぬまま歩き続ける。民兵とソ連軍の追従から逃れつつ、やがて梶はソ連軍の捕虜となる…。大河シリーズ堂々の完結。戦争という非人間的な行為を、人間として乗り越えようとする梶の姿を力強く描いた本作は、日本映画を代表する反戦映画の傑作となった。
化石
原作:井上靖/脚本:稲垣俊、よしだたけし/撮影:岡崎宏三/音楽:武満徹
出演:佐分利信、岸惠子、井川比佐志、山本圭、栗原小巻、小川真由美
1975/カラー/201分/スタンダードサイズ/四騎の会=俳優座
◆井上靖の同名小説を原作に、不治の病に侵された初老の社長が、ヨーロッパを旅しながら生と死を見つめ直すさまを描いた全8話のTVドラマを、劇場用映画として再編集した作品。黒澤明、木下惠介、市川崑と共に結成した「四騎の会」でそれぞれTVドラマを作ることになって企画された。
東京裁判
原案:稲垣俊/脚本:小林正樹、小笠原清/音楽:武満徹/ナレーター:佐藤慶
1983/モノクロ/277分/スタンダードサイズ/講談社 © 1983講談社
◆戦勝国と敗戦国、国家と人間、戦争犯罪をひき起こしたものは何か、小林が五年もの歳月をかけて完成させた情熱と執念の大作!
戦後日本の運命を決定づけた極東国際軍事裁判の全貌を描いた長編ドキュメンタリー映画。アメリカ国防省が第二次世界大戦の記録として撮影、所蔵していた裁判関係の膨大なフィルムを用いた映画を講談社が創立70周年事業として企画し、小林が五年もの歳月をかけて完成させた大作。
息子の青春
原作:林房雄/脚色:中村定郎/撮影:高村倉太郎/音楽:木下忠司/美術:中村公彦
出演:三宅邦子、北龍二、石濱朗、小園蓉子、笠智衆
1952/モノクロ/45分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1952 松竹株式会社
◆のちに“鋼鉄”と形容される重厚な作風とは対照的に、明朗軽快な筆致で息子の青春を描く監督デビュー作!
小林正樹の監督デビュー作の中篇。木下惠介組出身の小林らしく、木下映画の明朗快活さを思わせる初々しいタッチで、小説家一家の二人息子の青春模様がスケッチされる。18歳の長男・春彦には、最近ガールフレンドができたばかり。一方、次男の秋彦は友人とともに、学生を殴り盗みを働いたとして警察に捕まってしまう…。
まごころ
脚本:木下惠介/撮影:森田俊保/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:田中絹代、 津島惠子、高橋貞二、石濱朗、三橋達也、淡路惠子、野添ひとみ
1953/モノクロ/95分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1953 松竹株式会社
◆師・木下惠介の脚本による淡く儚いメロドラマ! 又従妹の名女優・田中絹代、唯一の小林映画出演作!
受験生の弘は向かいのアパートに引越してきた少女ふみ子に心奪われる。病身のふみ子の療養費を工面すべく、弘は入試合格を父に約し、猛勉強を始める…。木下惠介の脚本で初の長編映画を演出。『息子の青春』に続く出演の石濱朗とデビュー直後の野添ひとみとの淡く儚いメロドラマ。小林の又従姉の田中絹代も出演している。
三つの愛
脚本:小林正樹/撮影:井上晴二/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:山田五十鈴、岸惠子、三島耕、伊藤雄之助
1954/モノクロ/114分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1954 松竹株式会社
◆三者三様の愛を、人間の弱さを浮き彫りにしながら描く。小林自身による脚本は王道の松竹大船調と一線を画す異色作!
音楽教師の通子は恋人の画家・信之とのすれ違いに悩む。造り酒屋に奉公にやってきた郁二郎は、蝶や鳩を愛する知的障がいの少年・平太と友だちになる。教会で平太を見守る八杉神父は、かつて妻に捨てられたという過去を持つ…。三者三様の愛の行方が、高原の静かな村を舞台に綴られる。オリジナル脚本で挑んだ、小林曰く「ピューリタンなシャシン」。
この広い空のどこかに
脚本:楠田芳子 潤色:松山善三/撮影:森田俊保/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:佐田啓二、久我美子、高峰秀子、石濱朗、大木実
1954/モノクロ/109分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1954 松竹株式会社
◆戦後日本の市井で希望を忘れず生きる家族の肖像。初期の小林作品のなかでとりわけ人気の高い名作!
一家の大黒柱である長男・良一に佐田啓二、その新妻・ひろ子に久我美子、良一の異母妹弟に高峰秀子と石濱朗と、実力派の名優が繰り広げる珠玉のホームドラマ。登場人物たちの複雑かつ繊細な心理に寄り添い、戦後の川崎で酒屋を営む家族の暮らしを丁寧に描き出した、松竹時代初期の代表作。
美わしき歳月
脚本:松山善三/撮影:森田俊保/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:久我美子、 木村功、佐田啓二、織本順吉、田村秋子、小沢栄
1955/モノクロ/125分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1955 松竹株式会社
◆佐田啓二、久我美子、木村功らの好演が爽やかな印象を残す。時に老いらくの恋も交え描かれる、戦後の若者たちの青春群像!
祖母と花屋を営む桜子は、戦死した兄の友人の今西と相思相愛の仲。しかし、同じく兄の友人である仲尾が心を寄せる由美子と今西が会っているのを見た桜子は、二人の仲を誤解してしまう。『この広い空のどこかに』に続く出演の佐田啓二、久我美子に、本作が松竹映画初出演の木村功も加わり、戦後の若者たちの青春群像を描く。
泉
原作:岸田國士/脚色:松山善三/撮影:森田俊保/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:佐分利信、有馬稲子、佐田啓二、渡辺文雄、内田良平、桂木洋子
1956/モノクロ/129分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1956 松竹株式会社
◆水源地問題で揺れる大自然を舞台に繰り広げられるメロドラマ。ヒロインの複雑な内面を有馬稲子が見事体現!
水源地問題で土地の人々と土建会社の諍いが続く浅間山麓の集落。植物学者の幾島は実業家・立花の秘書・素子に心惹かれていたが、立花は謎の自殺を遂げる。新たな水源地を探し続けていた幾島だったが、素子への想いが届かぬことを悟り、彼女の許を去るが…。社会問題とメロドラマを巧みに融合させた意欲的ラブ・ストーリー。
壁あつき部屋
原作:BC級戦犯の手記より/脚色:安部公房/撮影:楠田浩之
音楽:木下忠司/美術:中村公彦
出演:三島耕、浜田寅彦、岸惠子、小林トシ子、小沢栄、信欣三、伊藤雄之助
1956/モノクロ/110分/スタンダードサイズ/新鋭プロ © 1956 松竹株式会社
◆「社会に対して発言するような映画作家になりたい」 戦中派・小林が安部公房の脚本を得て、戦争犯罪を追求する問題作!
対米感情の配慮から3年間も公開を見送られた問題作。無実でありながらBC級戦犯として投獄された戦争犠牲者の手記を、当時「壁」で芥川賞を受賞したばかりの安部公房が脚色。上官の密告により投獄された山下、米兵捕虜の通訳だった横田、朝鮮人の許らの巣鴨拘置所での非人間的な生活を通し、戦争犯罪の真実を追求する。
あなた買います
原作:小野稔/脚色:松山善三/撮影:厚田雄春/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:佐田啓二、岸惠子、大木実、伊藤雄之助、水戸光子、東野英治郎
1956/モノクロ/112分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1956 松竹株式会社
◆欲望にまみれたプロ野球界の裏側で繰り広げられるスカウト合戦をドキュメンタリータッチで活写、社会派監督・小林正樹の出世作!
プロ野球チームのスカウト岸本は、大学野球の花形選手・栗田をスカウトするよう命じられ、栗田を今まで育て上げてきた男・球気に接近する。球気は、他球団スカウトをも手玉に取りながら、栗田の値を吊り上げていく…。ストーブ・リーグとも呼ばれたプロ野球界スカウトたちの狂騒をスキャンダラスに描いた小林の出世作。
黒い河
原作:富島健夫/脚色:松山善三/撮影:厚田雄春/音楽:木下忠司/美術:平高主計
出演:有馬稲子、渡辺文雄、仲代達矢、山田五十鈴、桂木洋子、淡路惠子
1957/モノクロ/110分/スタンダードサイズ/松竹大船 © 1957 松竹株式会社
◆米軍基地周辺を舞台に繰り広げられる社会派青春群像劇! 仲代達矢が小林映画初出演!ピカレスクな魅力で圧倒的な存在感!
学生の西田が米軍基地に近い貧乏長屋に引っ越してきた。愚連隊の人斬りジョーらは長屋の住人の立ち退きを画策する。ジョーは、目をつけていた西田の友人・静子を手籠めにし…。有馬扮する静子について小林曰く「結果として自分自身を滅ぼす形でしか自分を救えなかった女のギリギリの心理を、迫力あるタッチで描きたい」。
からみ合い
原作:南条範夫/脚色:稲垣公一/撮影:川又昂/音楽:武満徹/美術:戸田重昌
出演:山村聰、渡辺美佐子、千秋実、岸惠子、宮口精二、仲代達矢
1962/モノクロ/108分/シネスコサイズ/にんじんくらぶ=松竹大船 © 1962 松竹株式会社
◆小林組初参加の武満徹の音楽が画面に緊張感を漲らせる! 徐々に悪に染まっていく女性秘書の岸惠子の演技は圧巻!
余命3か月と宣告された会社社長が、かつて関係した3人の女の子どもに遺産を渡すべく、秘書のやす子、秘書課長の藤井、顧問弁護士の吉田に捜索を命じる。しかし、それぞれ遺産をわが物にしようと画策し…。遺産をめぐる人間の赤裸々な欲望を露にしていくサスペンス映画。武満徹が小林映画に初参加している。
切腹
原作:滝口康彦/脚色:橋本忍/撮影:宮島義勇/音楽:武満徹/美術:大角純平、戸田重昌
出演:仲代達矢、石浜朗、岩下志麻、丹波哲郎、三国連太郎
1962/モノクロ/134分/シネスコサイズ/松竹京都 © 1962 松竹株式会社
◆主演・仲代達矢はじめキャスト・スタッフの到達点! 張り詰めた緊張感が全篇にみなぎる圧倒的な様式美!
寛永7年の秋、井伊家上屋敷にある人が現れ、切腹のために庭を拝借したいという。申し出を受けた家老は、春に同じ要件で来た男の無残な最期を話し始めるが…。小林が初めて手掛けた本格時代劇映画で、橋本忍による秀逸な脚本、宮島義勇による重厚な撮影、武満徹による斬新な音楽を得て、日本映画に残る傑作となった。
怪談
原作:小泉八雲/脚本:水木洋子/撮影:宮島義勇/音楽:武満徹/美術:戸田重昌
出演:新珠三千代、渡辺美佐子、三国連太郎、仲代達矢、岸惠子、中村嘉葎雄、
丹波哲郎、志村喬、中村翫右衛門
1965/カラー/161分/シネスコサイズ/にんじんくらぶ=東宝 © 1965 東宝
※インターナショナル・バージョンでの上映となります。
◆壮大なスケールで描く、豪華絢爛な小林初のカラー大作! 華麗な色彩がめくるめく映像美の極致!
小泉八雲の同名小説の中から『黒髪』『雪女』『耳無し芳一』『茶碗の中』の4編を映画化した怪奇オムニバス映画超大作。小林監督初のカラー映画で、豪華絢爛たるセットを駆使した幻惑的画面の数々が見る者を圧倒する。構想10年、撮影期間9か月にも及ぶ本作はカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞。
上意討ち -拝領妻始末-
原作:滝口康彦/脚本:橋本忍/撮影:山田一夫/音楽:武満徹/美術:村木与四郎
出演:三船敏郎、司葉子、加藤剛、仲代達矢、神山繁、三島雅夫
1967/カラー/121分/シネスコサイズ/三船プロ=東宝 © 1967 東宝
◆三船敏郎主演! 仲代達矢と対峙する場面は圧巻! 「切腹」に続き、封建制度の不条理を暴く傑作時代劇!
会津藩馬廻り役の笹原家に藩命で嫁がされた主君の側室を、家の者たちは優しく受け入れた。しかし数年後、今度はいきなり返上せよとの勝手極まる理不尽な命が下り、憤った家の者たちが反旗を翻し、悲劇的顛末を迎える。『切腹』に続いて滝口康彦の『拝領妻始末』を原作とし、改めて封建制度の非人道性を説いていく時代劇大作。
日本の青春
原作:遠藤周作/脚色:廣澤榮/撮影:岡崎宏三/音楽:武満徹/美術:小島基司
出演:藤田まこと、新珠三千代、黒沢年男、酒井和歌子、佐藤慶、田中邦衛、奈良岡朋子
1968/モノクロ/129分/シネスコサイズ/東京映画 © 1968 東宝
◆戦争とともに失われた青春! 善良な中年男を藤田まことが見事に演じ、日本の戦中・戦後史をほろ苦いユーモアで綴る。
原作は遠藤周作の『どっこいショ』。戦時中、上官に殴られて耳をつぶし、戦後は事なかれ主義者として、妻子に疎まれながらも平凡な日々を過ごしてきた戦中派の男を主人公に、戦争によって青春を奪われた世代の感慨と悔恨をほろ苦いユーモアを交えてアイロニカルに奏であげていく社会派ヒューマン映画。
いのち・ぼうにふろう
原作:山本周五郎/脚本:隆巴/撮影:岡崎宏三/音楽:武満徹/美術:水谷浩
出演:仲代達矢、栗原小巻、酒井和歌子、中村翫右衛門、勝新太郎、神山繁
1971/モノクロ/121分/シネスコサイズ/東宝=俳優座 © 1971 東宝
◆「いいんじゃねえか、他人の恋に、いのち、棒に振ってみたって」 ならず者たちの人情を描く感動の時代劇大作!
山本周五郎の小説を原作に、世間からつまはじきされている深川安楽亭の人々が、女衒に売られた幼馴染を助けようとする若者の純情に胸を打たれ、危険な仕事に手を染めていくピカレスク時代劇。舞台となる安楽亭は、相模川の中州に基礎を組んで一軒丸ごとオープンセットを建築したという、小林ならではの完璧主義ぶりもうかがえる。
燃える秋
原作:五木寛之/脚色:稲垣俊/撮影:岡崎宏三/音楽:武満徹/美術:村木忍
出演:真野響子、佐分利信、北大路欣也、小川真由美、上条恒彦、三田佳子、
芦田伸介、井川比久志
1978/カラー/137分/ヴィスタサイズ/三越=東宝 © 1979 三越/東宝
◆歴史・文化に彩られた土地を舞台に、自立する女性の愛と葛藤を描く。 小林にとって、ほとんど唯一と言える“女性映画”!
五木寛之の同名ベストセラー小説を原作に、親子ほど年の離れた男との愛人生活に疲れたヒロインが、男の死後イランへ旅立ち、5000年の歴史を誇るペルシャ文化とペルシャ絨毯に魅せられ、愛や結婚よりももっと大切な何かを求めながら、やがて自立していくまでを描いた映画。
わが映画人生/小林正樹監督
構成・担当:奥中惇夫/編集助成:放送文化基金/出演:小林正樹、篠田正浩(インタビュアー)
1993年/カラー/120分/スタンダードサイズ/日本映画監督協会 © 2003日本映画監督協会
◆日本映画監督協会が1988年から開始した先輩や師匠の監督に、後輩あるいは弟子がインタビューする「わが映画人生シリーズ」。かつて松竹の後輩だった篠田正浩監督が小林監督に尋ねる必見作。