世界の映画史に峻厳とそびえ立つ巨人・黒澤明。没後十七回忌、世界の映画人に多大な影響を与えた傑作『七人の侍』誕生60周年を記念し、黒澤明監督全作品の上映を行います。1910年東京に生まれ青年期には画家を目指した黒澤監督は36年にP.C.L.映画製作所に入社、山本嘉次郎監督を師と仰いで助監督修業に励み、43年『姿三四郎』で監督デビュー、戦後は『醉いどれ天使』(48年)などで頭角を現し、50年の『羅生門』は翌年のヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞、日本映画の高い芸術性を海外に知らしめました。以降、『生きる』(52年)、『七人の侍』(54年)、『蜘蛛巣城』(57年)、『用心棒』(61年)、『天国と地獄』(63年)など多彩なジャンルにわたる骨太の傑作群は、つねに日本社会の話題であり続けたばかりか、各国の観客から強く支持され、世界で最も名前が知られる日本人として圧倒的な評価を得てきました。『デルス・ウザーラ』(75年)や『乱』(85年)など国際的な連携による大作にもチャレンジし、その名声は永遠のものとなっています。遺作『まあだだよ』(93年)にいたる生涯の全作品30本※の上映を通して、日本が誇る「世界のクロサワ」の足跡を回顧します。※『デルス・ウザーラ』のみ上映予定です。
姿三四郎
1943年/東宝/白黒/79分 脚本:黒澤明/原作:富田常雄/撮影:三村明/美術:戸塚正夫/音楽:鈴木静一 ■出演:藤田進、大次郎、月形龍之介、轟由起子、花井蘭子、志村喬
◆黒澤明の記念すべき監督デビュー作。柔術を志した姿三四郎が、矢野正五郎によって柔道の素晴らしさを知り、幾多の試練ののち一人前の柔道家になるまでを描く。師匠と弟子という黒澤的テーマに溢れ、静と動のコントラスト、細かなカット割り、スローモーション、風吹きすさぶラストの圧巻の決闘シーンなど、新人らしからぬ見事さ! 小津も絶賛した快作。
一番美しく
1944年/東宝/白黒/85分 脚本:黒澤明/撮影:小原譲治/美術:阿部輝明/音楽:鈴木静一 ■出演:矢口陽子、志村喬、入江たか子、菅井一郎、清川荘司、谷間小百合、尾崎幸子
◆軍需工場での女子挺身隊の活動をセミ・ドキュメンタリー・タッチで描く。戦意高揚のために撮られた作品であるが、挺身隊員が一身不乱に働く姿は、デフォルメされ不気味にさえ感じ、戦意高揚とはほど遠い。実際の工員たちと同じ労働を割り当てられた女優たちの自然な演技が秀逸。黒澤本人も好きな作品のひとつにあげ、本作に出演した矢口陽子と、翌年結婚した。
續 姿三四郎
1945年/東宝/白黒/83分 脚本:黒澤明/原作:富田常雄/撮影:鈴木博/美術:久保一雄/音楽:鈴木静一 ■出演:藤田進、大次郎、轟由起子、月形龍之介、河野秋武、清川荘司、森雅之
◆『姿三四郎』の大ヒットにより続編を会社から要求され作った一編で、見事な娯楽作品となる。前作で敗れた檜垣源之助の弟二人が復讐のため三四郎に闘いをいどむ。拳闘や唐手など異種格闘技の見せ場や、敵役に白塗りの顔など能の中の狂人に様式を取り入れ、異様な雰囲気作りに成功している。クライマックスでの雪原での決闘は、前作に劣らずダイナミック!
虎の尾を踏む男達
1945年/東宝/白黒/58分 脚本:黒澤明/原作:能「安宅」、歌舞伎「勧進帳」/撮影:伊藤武夫/美術:久保一雄/音楽:服部正■出演:大河内傳次郎、藤田進、榎本健一、志村喬、森雅之、清川荘司
◆能の「安宅」、歌舞伎の「勧進帳」で知られる義経と弁慶の安宅越えの物語を翻案した黒澤初の時代劇。新たに創作されたエノケン(榎本健一)の「強力(ごうりき)」が狂言回しとして加わり、忠誠心のドラマを引き立てている。戦争末期の日本映画壊滅的な悪条件の元に作られ、終戦直後に完成条件の元に作られ、終戦直後に完成により、公開は7年後となった。
わが青春に悔いなし
1946年/東宝/白黒/110分 脚本:久板栄二郎/撮影:中井朝一/美術:北川恵司/音楽:服部正 ■出演:原節子、藤田進、大河内傳次郎、杉村春子、三好栄子、高堂国典、河野秋武
◆戦後初の監督作で、戦前の京大・滝川事件と戦中のゾルゲ=尾崎秀実のスパイ事件をモチーフに、帝国主義に屈せず自らの信念に基づいて強く生きる女性の姿を謳い上げた反戦的青春映画。労働組合の発言力が強く、脚本の変更を余儀なくされながら、若々しいロマンティズムと自由への憧憬に貫かれた傑作。戦前とは異なる新しい女性像として原節子が好演。
素晴らしき日曜日
1947年/東宝/白黒/108分 脚本:植草圭之助/撮影:中井朝一/美術:久保一雄/音楽:服部正 ■出演:沼崎勲、中北千枝子、菅井一郎、中村是好、清水将夫、渡辺篤、堺左千夫
◆戦後の住宅難で結婚できないカップルが、楽しいはずの日曜日のデートで、ことごとく厳しい現実に遭遇して落ち込みながら、最後には明るい未来に希望を抱き互いに絆を深めていく。グリフィスの無声映画『恋の馬鈴薯』からヒントを得て、希望を捨てずに夢を掴もうとする、戦後の貧しい恋人同士を瑞々しく描き出した感動作。上野や新宿で隠し撮りも行う。
酔いどれ天使
1948年/東宝/白黒/98分 脚本:植草圭之助、黒澤明/撮影:伊藤武夫/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:志村喬、三船敏郎、木暮実千代、山本礼三郎、中北千枝子、久我美子、千石規子
◆黒澤=三船黄金コンビの記念すべき第一作であり、音楽家・早坂文雄との対位法の映画音楽など、黒澤映画の様々な演出手法が確立した作品とも言われる初期代表作。肺結核に冒された若いやくざ(三船)と、彼を治療しようとする町医者(志村)の交流を描く。映画初主演の三船が圧倒的な存在感を放ち、世界の多くの映画作家に多大な影響を与えた傑作。
静かなる決闘
1949年/大映東京/白黒/95分 脚本:黒澤明、谷口千吉/原作:菊田一夫/撮影:相坂操一/美術:今井髙一/音楽:伊福部昭■出演:三船敏郎、志村喬、三条美紀、千石規子、中北千枝子
◆東宝争議のため初めて他社で監督した作品。特効薬のなかった梅毒を題材に手術中に患者の梅毒が感染してしまった医師の苦悩を描く。やくざ役が多かった三船を医者に起用したことで批判されたが、三船は見事に演じ、黒澤の期待に応えた。冒頭の野戦病院のシーンに圧倒的迫力があり、俯瞰や煽りを多様したカメラ・アングルの躍動感も素晴らしい。
野良犬
1949年/映画芸術協会・新東宝/白黒/122分 脚本:黒澤明、菊島隆三/撮影:中井朝一/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:三船敏郎、志村喬、木村功、淡路恵子、山本礼三郎、三好栄子
◆黒澤明が初めて本格的な犯罪サスペンスに挑んだ意欲作であり、海外での評価が非常に高いフィルムノワールの傑作。うだるような猛暑の敗戦直後の東京を舞台に、拳銃を盗まれた新米刑事がベテラン刑事とともに犯人を追いつめる姿をスリリングに描く。やがて刑事は、自分とよく似た境遇を持つ、野良犬のような男が犯人だと知るが…。何回見ても素晴らしい!
醜聞 スキャンダル
1950年/松竹大船/白黒/104分 脚本:黒澤明、菊島隆三/撮影:生方敏夫/美術:浜田辰雄/音楽:早坂文雄 ■出演:三船敏郎、山口淑子、桂木洋子、志村喬、小澤榮、千石規子、北林谷栄
◆雑誌に人気歌手とのスキャンダル記事をでっち上げられた新進画家が、名誉を守るために一人の老弁護士を雇うが…。報道の自由を盾に個人のプライバシーまで面白おかしく書き立てるジャーナリズムの暴力を題材に、正義感の強い主人公、不正に負けた弁護士の良心の呵責など、黒澤ならではの劇的緊張で描いた佳作。今年9月に亡くなった山口淑子が人気歌手を演じている。
羅生門
1950年/大映京都/白黒/88分 脚本:黒澤明、橋本忍/原作:芥川龍之介/撮影:宮川一夫/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬、千秋実、加東大介
◆ヴェネチア映画祭最高賞、アカデミー賞特別賞を受賞するなど、日本映画が初めて国際的に認められると共に、世界に“クロサワ”の名を知らしめた記念すべき作品。芥川龍之介の短編「藪の中」を原作に、人間の本質を鋭く描いた内容、斬新な構成、主役三人の名演に加え、革新的な撮影をした宮川一夫のカメラ・ワークなど、世界中の映画人たちを驚愕させた傑作。
※本作は、「新・午前十時の映画祭」の一編として、2015年1月10日(土)~23日(金)大阪ステーションシティシネマでも上映されます。
白痴
1951年/松竹大船/白黒/166分 脚本:久板栄二郎、黒澤明/原作:ドストエフスキー/撮影:生方敏夫/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:森雅之、原節子、三船敏郎、久我美子、志村喬
◆若い頃から私淑するドストエフスキーの名作を札幌に舞台を置き換え、黒澤が全身全霊をかけて作った最大の野心作。コントラストの強い白黒映像によるクローズアップを効果的に使い、素朴で純粋な人間が破滅へと向かう悲劇を謳いあげた。原、三船の演技も光り、なかでも森は無垢なる「白痴」を力演し、代表作とした。いま見直されるべき名編。
生きる
1952年/東宝/白黒/143分 脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄 /撮影:中井朝一/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:志村喬、小田切みき、伊藤雄之助、田中春男、金子信雄、千秋実、日守新一、山田己之助、藤原釜足、小堀誠、中村伸郎、渡辺篤
◆四年ぶりに東宝に戻って監督。不治の病を宣告された市役所の課長が、生きることの意味を考え始め、残された人生を全力で生き抜く姿を描いた傑作。黒澤作品の中でも、ヒューマニズムを最も高らかに謳いあげた作品であり、「生きる」というテーマを真っ向から描くとともに、お役所仕事に代表される官僚主義を批判。主人公を演じる志村喬が、雪の舞う公園で“命短かし、恋せよ乙女…”と「ゴンドラの唄」を唄うシーンはあまりにも有名。
七人の侍
1954年/東宝/白黒/207分(途中休憩あり) 脚本:黒澤明、橋本忍、小國英雄/撮影:中井朝一/美術:松山崇/音楽:早坂文雄 ■出演:三船敏郎、志村喬、宮口精二、藤原釜足、加東大介、木村功、千秋実、小杉義男、左卜全、稲葉義男、土屋嘉男、東野英治郎、多々良純、津島恵子、仲代達矢
◆日本映画史上ベストワンの超娯楽作で、世界中の映画監督たちが憧れた黒澤映画の最高峰。貧しい農村の百姓たちが、野盗化した野武士の襲来から村を守るため、個性派揃いの七人の侍を雇う。一年をかけて、何千人ものスタッフ・キャストを動員、巨額の製作費を投入し完成。初めてマルチカム方式(複数のカメラで同時撮影)を採用し、迫力あるアクションシーンを生み出すとともに、七人の侍の性格や運命を描きわけた物語は実に多彩で、壮絶な闘いの戦闘シーンと相まって重厚で力量感溢れる傑作となった。
生きものの記録
1955年/東宝/白黒/113分 脚本:橋本忍、小國英雄、黒澤明/撮影:中井朝一/美術:村木与四郎/音楽:早坂文雄 ■出演:三船敏郎、志村喬、三好栄子、清水将夫、根岸明美、青山京子
◆アメリカの水爆実験で第五福竜丸の乗組員が被爆した事件に突き動かされ、核の恐怖に真っ向から挑んだ問題作。原水爆の脅威から逃れるため南米への移住を計画する町工場の老経営者を周囲は狂人扱いするが…。現代社会の狂気に鋭く迫った野心的大作。当時35歳の三船敏郎が70歳の老人を好演。音楽は『醉いどれ天使』以来の盟友・早坂文雄の遺作となった。
蜘蛛巣城
1957年/東宝/白黒/110分 脚本:小國英雄、橋本忍、菊島隆三、黒澤明/原作:シェイクスピア/撮影:中井朝一/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、山田五十鈴、志村喬、太刀川洋一、千秋実、浪花千栄子
◆シェイクスピアの「マクベス」を、そのまま日本の戦国時代に置き換え、能楽の様式美を取り入れ描いた戦国武将の一大悲劇。鷲津武時は謀反を起こした敵を討った帰途、森で出会った老婆から不思議な予言を聞くが…。能の特異な演出、城をめぐる妖気、森の不気味さなど怖さも際立った野心作。三船敏郎が命がけで演じた無数の矢にさらされるラストシーンは圧巻。
どん底
1957年/東宝/白黒/137分 脚本:黒澤明、小國英雄/原作:ゴーリキー/撮影:山崎市雄/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、香川京子、山田五十鈴、中村鴈治郎、左卜全、藤原釜足、三井弘次
◆ゴーリキーの同名戯曲に材をとり、脚本の小国英雄とともに、舞台をふきだまりのような江戸の場末の棟割り長屋に移し、社会の底辺に生きる人々の人生模様を描いた群像劇。リハーサルに40日近くをかけ、複数のカメラによるダイナミックな躍動感も秀逸。ラストの馬鹿囃子のシーンではミュージカル映画顔負けのリズム感が画面全体から溢れている。
隠し砦の三悪人
1958年/東宝/白黒/139分 脚本:菊島隆三、小國英雄、橋本忍、黒澤明/撮影:山崎市雄/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、藤田進、上原美佐、志村喬
◆黒澤初のワイドスクリーン。隠し砦から黄金とお姫様を連れ、敵中突破を試みる武将と二人の百姓を描いた痛快娯楽作品。一難去ってまた一難とばかりに、スリルとサスペンスとユーモア、そして迫力満点の痛快娯楽巨編。『スター・ウォーズ』のC-3PO、R2-D2のモデルは、本作の二人の百姓。兵庫県有馬街道沿いの蓬莱峡・白水峡でロケが行われた。
悪い奴ほどよく眠る
1960年/黒澤プロ・東宝白黒/151分 脚本:小國英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍/撮影:逢沢譲/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、森雅之、香川京子、三橋達也、志村喬、西村晃、藤原釜足
◆黒澤プロの第1作。黒澤は「第1作に一番難しい題材を選ぶ」と言い、最強の脚本陣で挑んだ。汚職事件の犠牲者の息子による、父親を死に追いやった政官財の有力者たちへの復讐劇を通して、日本社会に根深くはびこる腐敗の構造の中で、甘い汁を吸い続ける巨悪に挑んだ社会派サスペンス・ドラマ。重いテーマながら娯楽性満点の傑作。フランシス・コッポラも絶賛!
用心棒
1961年/黒澤プロ・東宝/白黒/110分 脚本:菊島隆三、黒澤明/撮影:宮川一夫/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、仲代達矢、東野英治郎、河津清三郎、山田五十鈴、山茶花究、司葉子、志村喬、太刀川寛、加東大介、夏木陽介、藤原釜足、天本英世、藤田進、渡辺篤、西村晃、土屋嘉男
◆黒澤が理屈抜きに面白い、楽しい映画を作りたいと撮った黒澤プロの第2作。二つのやくざ組織が支配する宿場町にふらりと現れた一人の浪人の活躍を描き、マカロニ・ウェスタンの源流ともなったユーモアとアクションあふれる痛快娯楽時代劇。撮影には『羅生門』以来となる宮川一夫を起用。三船の豪快なキャラクター、個性豊かな登場人物たち、気が利いた台詞、波瀾万丈なストーリーと文句なしに楽しめる一本。
椿三十郎
1962年/黒澤プロ・東宝/白黒/96分 脚本:菊島隆三、小國英雄、黒澤明/原作:山本周五郎/撮影:小泉福造、斎藤孝雄/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、仲代達矢、加山雄三、入江たか子、団令子、平田昭彦、田中邦衛、久保明、土屋嘉男、小林桂樹、志村喬、藤原釜足、伊藤雄之助
◆『用心棒』の大ヒットを受けて、山本周五郎「日日平安」のシナリオに「用心棒」の主人公をミックスさせた痛快娯楽時代劇第2弾。上役の汚職を暴き出そうと立ち上がる9人の若侍たちの味方についた三十郎が、その凄腕で御家騒動の黒幕と対決する痛快作。前作以上に人間味溢れたユーモアと知略に満ちた作品であり、クライマックスの対決シーンも圧倒的迫力! 人を斬る音や血しぶきの効果など、その後の時代劇映画を変えた歴史的作品。
天国と地獄
1963年/黒澤プロ・東宝/パートカラー/143分 脚本:小國英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明/原案:エド・マクベイン/撮影:中井朝一、斎藤孝雄/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、香川京子、仲代達矢、山崎努、三橋達也、加藤武、伊藤雄之助、中村伸郎、田崎潤、志村喬、藤田進、土屋嘉男
◆丘の上の大邸宅を3畳の安アパートから見つめる誘拐犯と刑事たちの息詰まる対決を描いた社会派サスペンス。前半は誘拐された少年を救出するヒューマン・ドラマ、後半は犯人追跡のサスペンスというように、それぞれ趣の違った二部構成になっている。特急こだまに8台のカメラを乗せて撮った身代金引き渡しのシーンは臨場感たっぷり。白黒作品だが、ポイントとなるシーンを着色。爆発的大ヒットを記録。
赤ひげ
1965年/黒澤プロ・東宝/白黒/185分(途中休憩あり) 脚本:井手雅人、小國英雄、菊島隆三、黒澤明/原作:山本周五郎/撮影:中井朝一、斎藤孝雄/美術:村木与四郎/音楽:佐藤勝 ■出演:三船敏郎、加山雄三、二木てるみ、山崎努、桑野みゆき、香川京子
◆赤ひげと呼ばれる医師と青年医師の心の交流を描き大ヒットした黒澤・三船最後のコンビ作品。3億円近い製作費と足掛け12ヶ月に及ぶ撮影期間をかけた大作で、養生所の大オープンセットや小道具へのこだわりも伝説化している。師匠と弟子という黒澤的テーマに加え、彼らをとりまく貧しい人々の人生模様を骨太な人間ドラマでダイナミックに描いた黒澤の集大成!
どですかでん
1970年/四騎の会・東宝/カラー/126分 脚本:黒澤明、小國英雄、橋本忍/原作:山本周五郎/撮影:斎藤孝雄、福沢孝道/美術:村木与四郎、村木忍/音楽:武満徹 ■出演:頭師佳孝、菅井きん、伴淳三郎、三波伸介、丹下キヨ子、芥川比呂志、沖山秀子
◆米資本による「トラ・トラ・トラ!」「暴走機関車」の頓挫を経て、黒澤が木下恵介、小林正樹、市川崑と結成した「四騎(よんき)の会」による第1回作品。山本周五郎作品の三度目の映画化で、黒澤初のカラー作品ともなった。毎日空想の電車を走らせる六ちゃんをはじめ奇妙な集落に住む人々のささやかな生活が、強烈な原色のもと温かいまなざしで映像化。
デルス・ウザーラ
1975年/モスフィルム・日本へラルド/カラー/141分 脚本:黒澤明、ユーリー・ナギービン/原作:ウラジーミル・アルセーニェフ/撮影:中井朝一、ユーリー・ガントマン、フョードル・ドブロヌラボフ/美術:ユーリー・ラクシヤ/音楽:イサーク・シュワルツ ■出演:ユーリー・サローミン、マクシム・ムンズク
◆シベリアの密林に住む猟師と探検隊長の友情と師弟関係を中心に厳しい大自然と人間の壮絶な戦いが描かれた大作映画(オリジナルは70ミリ)。黒澤は中井朝一キャメラマンらわずか5人の日本人スタッフとソビエトに渡り、1年7カ月におよぶ滞在で本作を完成させた。黒澤は自由な作品作りができたと語っている。
★本作は、9月末に日本での上映の権利が切れ、現在、権利者のロシア側と再契約の交渉が行われております。本作の上映も関係者の協力を得て交渉していただいていますが、未だ上映の決定には至っておりません。上映が可能ならば、12/14(日)15:05と12/15(月)10:30を予定しておりますが、現在のところ未定です。はっきりしないご案内で恐縮ですが、どうかご理解下さい。
影武者
1980年/黒澤プロ・東宝/カラー/179分 脚本:黒澤明、井手雅人/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎/音楽:池辺晋一郎 ■出演:仲代達矢、山崎努、萩原健一、隆大介、桃井かおり
◆武田信玄の影武者となった男の、数奇な半生を描いた時代劇。当初、信玄と影武者の二役は勝新太郎が演じ撮影が進んでいたが、黒澤と意見が衝突し、降板した。代役の仲代達矢の好演で撮影中のトラブルを感じさせない見事な出来映え。独創的な様式美と壮麗な合戦絵巻、F・コッポラとG・ルーカスによる海外版プロデュースなど世界でも大きな話題になった。
乱
1985年/ヘラルドエース・グリニッチフィルム・東宝/カラー/158分
脚本:黒澤明、小國英雄、井手雅人/原案:シェイクスピア/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎、村木忍/音楽:武満徹 ■出演:仲代達矢、寺尾聰、根津甚八、隆大介、原田美枝子、ピーター
◆シェイクスピアの「リア王」を下敷きに、老城主と三人の息子たちの愛憎渦まく争いを描いた戦国スペクタクル。脚本の執筆から完成までに10年近くを要し、日仏合作で26億円の製作費が投じられた。実現が危ぶまれたほどの、巨大な城のセット、色彩豊かな衣装、美しい画面構成などは絢爛豪華な絵巻物のようで、黒澤の様式美も頂点を極めた。
夢
1990年/黒澤プロ・ワーナー/カラー/119分
脚本:黒澤明/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎、櫻木晶/音楽:池辺晋一郎 ■出演:寺尾聰、倍賞美津子、根岸季衣、原田美枝子、伊崎充則、中野聡彦、頭師佳孝、井川比佐志、笠智衆
◆「夢から多くの映画的インスピレーションを与えられた」という黒澤監督が、狐の嫁入り、ゴッホの絵に迷い込む男など、実際に見たという夢を全8話のオムニバスにまとめた異色作。S・スピルバーグが製作総指揮にあたり、M・スコセッシがゴッホ役で登場。最終話に登場する川面の撮影方法にはA・タルコフスキーの助言が活かされたという。
八月の狂想曲
1991年/黒澤プロ・フィーチャーフィルムエンタープライズII・松竹/カラー/98分 脚本:黒澤明/原作:村田喜代子/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎/音楽:池辺晋一郎 ■出演:村瀬幸子、吉岡秀隆、大寶智子、井川比佐志、リチャード・ギア
◆疎遠だった祖母と孫たち、ハワイから来た日米両方の血を引く甥が、原爆の恐怖を体験した街、長崎で次第に心を通わせていく…。村田喜代子の芥川賞受賞作「鍋の中」を自ら脚色。長崎の祖母と孫たちの夏休みの交流を通して原爆の傷跡が描かれる。『生きものの記録』から36年、再び「原爆」を物語の核に据えて映画化。ヒューマニズムに満ちた黒澤ならではの佳作。
まあだだよ
1993年/大映・電通・黒澤プロ・東宝/カラー/134分脚本:黒澤明/原作:内田百閒/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎/音楽:池辺晋一郎 ■出演:松村達雄、香川京子、井川比佐志、所ジョージ、寺尾聡、油井昌由樹、日下武史
◆作家・内田百聞とその門下生たちとの晩年の交流を描いたヒューマン・ドラマ。百聞役の松村達雄が名演し、どこまでも穏やかさをたたえた物語とは対照的に、マルチカム、望遠レンズによるダイナミックな造形は前衛の域に達している。黒澤監督の監督50周年記念作であり、デビュー作以来こだわり続けた師匠と弟子をテーマにした本作が遺作になった。
【特別上映】わが映画人生黒澤明監督
1993年/日本映画監督協会/カラー/DVD/117分 インタビュアー:大島渚
◆日本映画監督協会制作、監督が監督にインタビューするという貴重な記録映像シリーズ「先輩監督インタビュー わが映画人生」の一篇。黒澤流映画論や撮影術、助監督として付いた山本嘉次郎監督など、大島渚が黒澤明に2時間にわたって創作の秘密を聞いた貴重なロング・インタビューの記録。