vol.31 戦争は、過去のことではない!

 

 

今年は、戦後80年ということを話題にしたものが多かったが、世界は、すでに戦後どころか、戦前を通り越して、戦争が日常化しているのではないか。プーチンのロシアのウクライナ侵攻は留まるところを知らず、ネタニヤフのイスラエルは、ハマスとの戦争を口実に、ガザで皆殺し作戦を敢行するだけでなく、イランを、ついでシリアを攻撃する。おまけにトランプのアメリカは、イランを空爆して、80年前のトルーマン気取りで、広島、長崎への原爆投下と同じく戦争を終わらせたと胸を張る。 ならば、日本はどうなのか? 戦争の芽はないのか。 それを考えるためにも、戦争映画を観よう。


戦争映画と一口に言っても、そこには、さまざまな切り口や主題がある。今回のシネ・ヌーヴォの特集では、それを、テーマごとに分類しているので、わかりやすい。最初の〈戦意昂揚映画>という括りで、わたしが一番興味惹かれるのは、『マレー戦記・進撃の記録』というドキュメンタリーだ。というのも、これは、勝ち戦の記録だから、文字通り、当時の「戦意」を昂揚させたのではないかと思うからだ。それが、一般大衆に、どのように受けたかを推測したいのだ。世の中行き詰まって、苦しいというときに、景気の良い話に惹かれ、そうだそうだと靡くのは、今の日本でも同じと思うから。


戦後に作られた戦争映画が、戦争がもたらした惨禍に焦点を当てたものが多いのは当然だが、問題は、何故、戦争に到ったのかということだろう。それに関わるのは、〈破滅への道「二・二六事件〉で挙げられた諸作だが、軍閥・軍部の独裁が戦争に踏み込んだという、それ自体は正しいが、それだけが強調されるのには不満がある。軍部が、混乱した政治を動かしていくのを良しとした、当時の一般大衆の気分が後押ししたはずだからである。 そして現在のわたしたちにも、そんな気分がないかどうか? 混迷する政治にうんざりして、それを一新するかのような威勢のいい意見に靡くことが・・・。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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