vol.18 乱れ撃ち、新東宝六〇本!

 

 

新東宝映画を60本とは、シネ・ヌーヴォも豪儀だね。もっとも、新東宝は、14年間で800本も作ったというから、まともにやろうとすると、そのくらいになるのも当然というべきか。なにしろ、怪談もあれば、戦争映画もあり、探偵ものもあれば、女体売りのエロものもありと、なんでもござれの新東宝映画なのだから。初期は、成瀬巳喜男の『銀座化粧』(51年)とか溝口健二の『西鶴一代女』(52年)などの名作もあるが、55年に大蔵貢が社長になると、「安く、早く、面白く」をモットーに、撮影所には「テスト1回、ハイ本番」というポスターが張られたというから、ケッサクだ!


ただ、わたしは、2000年代まで観客動員数、歴代トップを誇った『明治天皇と日露大戦争』(57年)を観ていない。当時高校生だったわたしは、中一の時に観たラオール・ウォルシュ(という監督名はあとから知ったのだが)の『白熱』に痺れ、ギャングものを中心にアメリカ映画を追いかけていたので、けっ、なにが日露大戦争だ、とそっぽを向いていたからだ。新東宝映画で好んで観ていたのは、中川信夫や石井輝男、ガキの頃から親しんだアラカンの天狗のオジさん関係で並木鏡太郎あたりで、新たに注目したのは、倒産間際に観て感嘆した『地平線がぎらぎらっ』(61年)の土居道芳だ。


ただ、いまは、関東大震災時に起きた事件を描いたという小森白監督の『大虐殺』(60年)や、阿部豊監督の『日本敗れず』(54年)、佐分利信+阿部豊監督の『叛乱』(同)など歴史に関わる作品を観たい。素材に対する前世代の歴史意識を知りたいので。さらに石井輝男監督の『女体渦巻島』(60年)は、未見なので、この機会に是非。三原葉子と万里昌代の競演、いや、競艶がどんなだったか! 万里昌代はグラマーとして喧伝されたようだが、わたしがいい女優だなと注目したのは、彼女が大映に移ってからだ。三原葉子も同様で、脇でも、自然に目が行く存在感は、東映作品が多かった。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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