vol.27 二本の話題作

 

 

シネ・ヌーヴォに、話題の新作が登場する。そう、小田香監督の『Underground アンダーグラウンド』と足立正生監督の『逃走』だ。一見、肌合いは異なるが、両作とも、今年、屈指の力作だ。
小田香監督は、タル・ベーラ監督が後進のために設立した映画学校で3年間学んだのち、卒業制作の長編『鉱 ARAGANE』でボスニア・ヘルツェゴビナの炭鉱を、大島渚賞を受賞した『セノーテ』では、メキシコ、ユカタン半島にある洞窟内のセノーテと呼ばれる泉を撮ってきたが、今回の『Underground アンダーグラウンド』では、日本の地下世界にカメラを向けた。


足立正生監督は、1971年、カンヌ映画祭の帰路、若松孝二監督と中東地域に渡り、パレスチナ解放人民戦線に加わり、『赤軍-PFLP・世界戦争宣言』を撮影・製作。のち、再度パレスチナに赴き、重信房子と共に日本赤軍を創設。国際指名手配を受け、レバノンで逮捕、3年間の留置後、日本へ強制送還される。2007年、35年ぶりに監督復帰。岡本公三をモデルにした『幽閉者/テロリスト』を撮り、2023年に、安倍元首相を射殺した少年(当時)を主人公にした『REVOLUTION+1』を監督。今回は、元東アジア反日武装戦線のメンバーで唯1人逃げ延びた桐島聡を主人公にした作品を撮った。


『Underground』は、まず、暗闇に明滅する光が眼をうつ。その地下道の壁に映る影。その影に触れる手。その女性の手は、壁に刻まれた像をまさぐり、沖縄のガマでは、鍋底に残る骨に触れる。そこから、地下に印された痕跡とその記憶を探る旅が開かれる。一方。『逃走』は、若き日の桐島が、仲間と共に、爆弾の威力を確かめるところから始まるが、主題は、彼が、別人になりすまして逃走を続けたことの意味を問うことにある。時に、かつての仲間の幻影に向かい、自問自答を繰り返す桐島。そこから、彼の逃走が、独りで為し得た闘争に他ならないことが浮かび上がる。。 

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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