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正直に申せば、わたしは、芦川いづみという女優に、さほど強い関心を持っていなかった。
それには、彼女の出演作をあまり多く観ていなかったという事情もある。彼女については、清楚、清純、清潔と、清いという文字がよく似合う若い女優という印象で受け取っていたのだ。これには、わたしの、どこか癖のある、奔放で、時に法に背く行動に走るような印象を与える女優に惹かれがちだったという、わたしの好みもあるだろう。そんな傾きからすると、芦川いづみは、遠い存在だったのだ。だが、翻って考えれば、先に挙げた清いという三文字が似合う女優こそ、日本映画では極めて稀な存在なのだ。
ただ、清楚、清純、清潔だけだと、無害なお人形さんのような存在を想像しがちだが、芦川いづみは、決して、そうではない。彼女には、優しいが、偏見に囚われない、毅然とした姿勢があるのだ。それは、『乳母車』(田坂具隆)で、父の愛人(新珠三千代)や、彼女が産んだ赤ん坊に接する態度を見ても明らかだろう。それに対して、『あした晴れるか』(中平康)では、カメラマンの石原裕次郎を先導して、東京を撮り歩く、眼鏡とスラックス姿の芦川の活発な姿が際立つ。かと思うと、『美しい庵主さん』(西川克己)では、一転して丸坊主の尼僧を演じているのだから、彼女の芸域は広いのだ。
だが、今回、DVDで初めて観た『硝子のジョニー 野獣のように見えて』(蔵原惟繕)には瞠目した。芦川演じる娘は、北海道の漁村でアイ・ジョージの女衒に買われた貧民で、その佇まいも清楚とはほど遠い。彼女は、アイ・ジョージから逃れた車中で、たまたま助けてくれた宍戸錠と出会う。以後、競輪の予想屋で、ある選手に夢を賭ける宍戸を、厄介者扱いされながら追う一方、アイ・ジョージに追われる。という展開の中で、彼女の無垢な純真さによって、二人の男は、それぞれが抱える夢や悩みから解放されていく。本作は、従来のイメージを超えた芦川いづみの代表作というべき傑作である。
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