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わたしが石井裕也監督の作品に、双手を挙げて賛意を表明したのは、『映画 夜空はいつも最高密度の青色だ』(2017)である。
その前の話題作『舟を編む』は、大方の評判は良かったが、松田龍平の演技に、ちょっと首をかしげたので、その分、マイナスになった。 それに対して、『夜空は……』は、最果タヒの詩を、あそこまで見事な物語にした石井の脚本に感嘆したのと、石橋静河という新人を見事な女優として生かした監督としての手腕に脱帽した。むろん、相手を務めた池松壮亮、それに、過酷な現場で事故に遭って死ぬ松田龍平も前作より遙かに良かった。
その次は、『茜色に焼かれる』(2021)だ。これについては、今年の夏まで、映画評を連載していたPR誌に、闘う母の物語としてエールを送った。実際、この映画の主役、尾野真千子演じる母は、7年前に夫を交通事故で亡くし、その相手が謝罪をしなかったので、賠償金の受け取りを拒否し、学校で虐めを受けている中学生の息子を育てている。そのため、彼女は、花屋でバイトし、風俗でも働いているが、いつも毅然としている。かつての社会派映画なら、こういう女性に同情を誘うような描き方をしたと思うが、石井演出は、それとまったく違って、どこか渇いたユーモアすら湛えているのだ。
ついでに言うと、風俗店の同僚で、糖尿病を患い、DVのしょうもない男と暮らしている女性を演じた片山友希も良かった。そして、この映画のあとが、韓国の映画人と組んで、現地を主舞台として撮った『アジアの天使』(2021)だ。何故か、天使が、中年男なのに笑ってしまったが、そこで人種、国籍を超えた人の繋がりに進む展開に無理がなく、終わって秘かに拍手を送った。
このように、近年、次々と力作を放っている石井裕也の最新作が、辺見庸の原作に基づく『月』である。おそらく、これは、今年屈指の話題作になると思うので、乞う、ご期待!
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