vol.11 師走の風に吹かれて

 

 

シネ・ヌーヴォ、1年の終わりは、「リクエスト特集」ですか。いいですね! 自分が見たい映画を観ながら、新しい年を迎えるなんて、映画ファンとしては極上の過ごし方じゃないですか。大阪の人が羨ましい。東京じゃ、そんな粋な企画を組む映画館なんてありゃしない。挙げられたラインナップを一瞥すると、半分以上は、わたしも観た作品が並んでいるが、未見という以上に、その名前も知らなかった映画があるのに、ビックリ。『アマゾン無宿 世紀の大魔王』なんて、どこから出てきたんだ、と思ってしまう。調べてみると、あの小沢茂弘監督の1961年公開の映画なんですね。


片岡千恵蔵と進藤英太郎が出ているらしいが、アマゾン無宿の大魔王って、どっちだ? と俄然、興味が湧く。これを選んだ方は、相当な映画マニアかと思われるが、好みが渋いですね。わたしなどは、小沢監督といえば、やくざ映画全盛期の、『関東流れ者』に始まる関東シリーズとか、『博打打ち』シリーズで親しんだ監督なんですがね。もっとも、小沢監督は、会社の要請に、何でも来いの腕達者で鳴らした方ですが、『裏切者は地獄だぜ』も、そうですね。で、この特集で、お前が観たいのは何かと問われれば、加藤泰監督の『骨までしゃぶる』です。郭の中で奮闘する桜町弘子をまた観たい!


桜町弘子が、加藤泰作品に出演するのは、『風の武士』(1964)が最初だったろうか? だが、いまも脳裏に鮮やかに浮かぶのは、『車夫遊侠伝 喧嘩辰』(同年)だ。彼女は気の強い芸者で、内田良平の辰の車に乗って喧嘩になり、川に放り込まれる。その姿に辰が惚れる。また『懲役十八年』(67)では、刑務所に送られる男を見送るときの、悲嘆を全身で表す彼女を忘れがたい。そして『炎のごとく』(81)では、出場は少ないながら、幕末の動乱の中、男に扮して闘いの場に赴く桜町弘子。加藤泰作品における彼女は、男どもの争いのなかでも挫けぬ、一輪の花のように匂い立つ。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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