vol.16 1924年生まれの二人の女優

 

 

越路吹雪、1924年2月18日生まれ。
淡島千景、1924年2月24日生まれ。
この二人、場所は違うがいずれも東京で、わずか6日違いで産声をあげたのだ。その後、辿った道もよく似ている。越路吹雪は、1937年に宝塚歌劇学校に入学、同期には、月丘夢路や乙羽信子がいた。淡島千景は、2年後、同じ学校に入学、同期には久慈あさみがいた。越路は、39年に宝塚歌劇団の一員となり、淡島も2年後、そのあとを追う。二人は43年の『にない文』という演目で、淡島の姫役、越路の男役で共演するが、戦時下ゆえ、淡島は女子挺身隊に、越路は、移動慰問隊に狩り出される。


てなことは、紙の資料で知っただけ、二人の姿が眼に浮かぶのは、舞台や映画を通してだ。淡島は、50年3月に宝塚に辞表を出して松竹入り。越路も映画界入りを望むが、戦後に解放された演目でスターぶりを発揮する彼女を放したがらぬ宝塚は、在籍のまま映画出演を認めるとして、同年秋、東宝の『東京の門』(杉江敏男監督)に出演する。だが、彼女の映画で記憶に残るのは、市川崑監督の『足に触った女』や『プーサン』、マキノ雅弘監督の『次郎長三国志』や『一本刀土俵入』、岡本喜八監督の『ああ爆弾』ぐらい。何よりも輝くのは、ミュージカル・スターとして歌い踊る越路吹雪である。


対して、淡島千景は、映画女優として大成する。松竹入社第1作の『てんやわんや』(渋谷実監督)で、水着姿の彼女に、劇中の者ばかりか観客も眼を見張り、アプレ女優現ると騒がれるが、本領はむしろ『夫婦善哉』(豊田四郎監督)のだらしない亭主を支えるしっかり女房ぶりで、市井に生きる、生活の苦労を背負いながらも美しく、毅い女を演じて、彼女の右に出る女優はいない。今井正監督の『にごりえ』から渋谷監督の『もず』や『好人好日』、久松静児監督の『喜劇 駅前団地』以下のシリーズ、豊田四郎監督の『暗夜行路』や『台所太平記』などでも、それはいかんなく発揮されている。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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