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大森一樹監督には、永遠の映画少年という呼称がついて回る。確かに、彼には、大人になっても、そう称されるような、純な心が息づいていたのだろう。だが、それだけで、映画産業が衰退した1980年代に、メジャーの正月映画を担うような仕事が出来るわけがない。むしろ、驚くべきは、映画少年ならではの遊び心で作った『暗くなるまで待てない!』から、一挙に、松竹という看板を背負って『オレンジロード急行』を撮ったことではないか。そんな例は、大森一樹以前にも以後にもない。
ただ、残念ながら、わたしは、この映画についてほとんど憶えていないのだ(苦笑)。わたしが、この新人監督に瞠目したのは、次の『ヒポクラテスたち』である。自身の医学生としてのありようを、群像劇として描きながら、そこに鈴木清順扮するドロボー小父さんを配するような遊び心も含めて、明らかに一人の若々しい作家の登場を告げる映画であった。ただ、ここには微妙な問題もある。大森が、この線で進むとしたら、相米愼二のような作家性の強い監督になったと思われるからだ。
だが、大森一樹は、その方向には進まず、すでに失われるつつあった、エンタテインメント映画の王道を切り拓いていったのだ。高校生で世界ジュニア水球選手権の日本代表になった吉川晃司に相応しく、彼に東京湾をバタフライで泳ぎ来させた『すかんぴんウォーク』しかり。斉藤由貴を中心にした三人娘をスクリーンに輝かせた『恋する女たち』しかり。この映画のラスト、和服で盛装した三人娘の野点を空撮で閉じた大森の技に唸った。しかも、斉藤由貴主演の三作は、いずれも東宝のお正月映画だったんだからね。
『ゴジラ』の生みの親である東宝の田中友幸プロデューサーが、大森を、平成ゴジラ・シリーズの一番手に起用し、脚本も彼に任せたのも頷けよう。そのような娯楽映画の王道を往った大森だが、最後の作品『ベトナムの風に吹かれて』は、松坂慶子演じる日本語教師と現地の俳優による群像劇に、戦中のベトナム残留日本兵の記憶なども盛り込み、自身の作家性とエンタテインメント性を融合させた快作ゆえ、お見逃しなきよう!
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