vol.7 岡田茉莉子・再び

 

 

関西圏の映画ファンは、恵まれているよな!シネ・ヌーヴォで、これだけ充実した岡田茉莉子の特集を見られるのだから。わたしだって、暇とお金があれば、一ヶ月ぐらい大阪に泊まり込んで、九条に日参したいくらいだ。というのも、見ていない作品がずらりと並んでいるのだから。そもそも、岡田茉莉子が東宝でデビューし、『芸者小夏』でスター街道を歩き始めた頃、当方は中坊で、『白熱』のジェームズ・キャグニー(監督:ラオール・ウォルシュ)に痺れて、ギャング映画ばかり追いかけていたから、街の電柱に貼られていた『芸者小夏』のポスターなど見ても、ケッとそっぽを向いていたのだ。


そんな次第で、東宝時代の岡田茉莉子で鮮やかに憶えているのは、稲垣浩監督の『宮本武蔵』と、その続編『続・宮本武蔵 一乗寺の決闘』で彼女が演じた朱美ぐらいなのだ。いつも、袖につけた鈴を鳴らして登場する真理子・朱美のコケティッシュで可愛かったこと!武蔵の想い人、おつうを演じた八千草薫のほうはからっきし記憶にないのに。冗談はともかく、これは、岡田茉莉子自身が言っていることだが、東宝時代の彼女は、不良少女、芸者、水商売の女という良妻賢母から外れた、蔭のある女が多かった。それだけに、演技力が求められたのだろうが、その成果は、『浮雲』などに端的に現れている。


岡田茉莉子の松竹時代は、中村登監督の『土砂降り』から始まる(専属契約はもっと後だが)。松竹のメロドラマといえば、戦前の『愛染かつら』から戦後の『君の名は』まで、運命的なすれ違いがベースだったが、これは、それと大きく違う。岡田演じるヒロインは、運命に流される受け身の女とは異なる姿を見せるのだ。ここから、新しいメロドラマが始まる。それは、岡田茉莉子が、自身の百本記念映画の監督として、新人の吉田喜重を指名し、原作を大幅に書き換えた吉田のシナリオによって作られた『秋津温泉』で、メロドラマの骨格を踏まえた反メロドラマとして結実するであろう。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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