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映画は、アクション。それを文字通り体現しているのが、キン・フー(胡金銓)監督の映画だ。そのアクションで特徴的なのは、宙を飛ぶことだ。香港映画でお馴染みのクンフー的なアクションもあるが、何よりも眼を奪うのは、地上から高い木の枝に舞い上がるかと思えば、逆さになって落下する、空飛ぶアクションなのだ。しかも、それをCGなどではなく、トランポリンを使って実際にやらせるのが、キン・フー映画である。それから思えば、CGは、映画を堕落させたのではないか、と思う。躍動する肉体、それも軽やかに舞うように見せる。思わず、ハーオと、中国語で拍手したくなる。
そして、そんなキン・フー映画に欠かせぬのが、『俠女』以来、彼の作品のミューズとも呼ぶべきシュー・フォン(徐楓)である。父は、讒言によって殺され、遺児の彼女も、宦官の秘密組織に負われる身、それが激しく闘う。その姿の美しいこと! まさに俠女の名前にふさわしい。『空山霊雨』では、一転して名代の女泥棒を演じているが、その身のこなし、闘いぶりは美事というしかない。これらの作品では、一片の笑顔も見せない彼女だが、その名にふさわしい傳奇的な物語『山中傳奇』では、男心を蕩かすような笑顔を見せる。実は、そんな彼女の正体を知れば、足がすくむのだが。
シュー・フォンのような女優を中心に、映画の魅力、ここにあり、と言いたくなるような傑作を撮ったキン・フー監督だが、面白いことに、映画をあまり観てこなかったという。幼い頃に観た中国の恐怖映画が怖くて、観ないようになったというのだ。影響を受けたのは、むしろ京劇だという。そういえば、彼のアクションには、京劇の立ち回りを思わせるところがある。宙を飛ぶのは、彼の工夫であろうが。それと、アクションとは別に彼の映画には、何故か、仏教が絡む話が少なくない。それも踏まえ、キン・フー監督が、どのような世界観をもって映画作りをしたか、改めて考える必要がある。
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